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株式会社沖縄エネテックは、1994年、沖縄電力株式会社の電力設備の調査・設計・工事監理、環境調査業務を専門とするグループ会社として設立されました。現在は沖縄電力以外からの業務も受託し、地球温暖化対策、再生可能エネルギー導入のコンサルティングなど幅広い分野へ活動の場を広げています。
中でも注目されているのが、2015年から開始したドローンによる新規事業。
電力設備の点検から鳥獣害対策まで、大きな可能性を秘めたドローン事業のなりたちとこれからを、エネルギー開発部 環境グループの伊佐真賢(いさまさたか)さん、鈴木啓容(すずきひろよし)さんに伺いました。

既存事業への危機感から点検業務に活用可能なドローンに注目

沖縄エネテックでは、大型の発電所を新たに建設する際に周辺環境に与える影響などを調査する環境影響調査が事業の大きな柱の一つとなっていました。しかし、電力設備の環境影響調査は、一定期間で終了するため、新たな電力設備の建設予定がない状況では、売り上げの大幅な減少が予想されていました。そのような状況下で、電力設備に関する知見や環境調査など、これまでに携わってきた業務経験、得意分野を生かせる新たな事業の創出が必要でした。

そんな中、比較的操縦が簡単で飛行が安定し、高性能・低価格になったドローンにより、高所や高電圧など、作業に危険が伴う電力設備の点検に有効活用できると考え、当時の役員に提案し、導入が決定しました。

エネルギー開発部 環境グループ 伊佐真賢さん
エネルギー開発部 環境グループ 鈴木啓容さん

「当時の社長は、『失敗しなければ進まない。壊してもいいから前を見てどんどんやれ』と言ってくれました。中には数百万円するようなものもあるんですよ(笑)。最先端の技術を思う存分味わいながら、思い切って色々とチャレンジできたおかげで、今があると思っています」(鈴木さん)

点検業務の安全を確保し、時間と費用も圧縮。ドローンならではの視点からの映像撮影も可能に

沖縄エネテックが新たな事業として着目した電力関連設備の点検は、鉄塔やボイラーなど、高所・高温・高電圧と隣り合わせで、人力で行うには大きな危険が伴います。
さらに、数日かけて足場を組まなければならない橋梁の点検や、クレーンが必要な風力設備点検など、時間と費用がかかるのが一般的でした。
こういった業務にドローンを導入することにより、時間と費用を大幅に圧縮しただけでなく、デジタル技術との組み合わせにより新たな付加価値を生み出すことに成功したと鈴木さんは語ります。

人が危険にさらされることなく、安全で精度の高い点検作業が可能になった点、費用が高額なヘリコプターや飛行機を使わなくても高度150mからの様々な視点を得られる点は大きな変化だと思います。
また、現場でお客様が気になった部分に戻ったり、近づいて拡大したりすることも可能。360度カメラでパノラマ画像も撮影できるので、短い時間で多くの情報を得られ、撮り直しやクレームはほとんど起きません」(鈴木さん)

マンションの壁面劣化状況や河川護岸の点検など多岐にわたる業務を行い、実績を積み上げてきた沖縄エネテック。様々なデジタル技術との掛け合わせで、その可能性をさらに広げてきました。

GPS連動の自動操縦プログラムが業務をアップデート

現在、ほとんどのドローンに装備されている自動操縦プログラムを、沖縄エネテックでも様々な場面で活用しています。

「例えば、建設工事現場内10カ所を毎月1回撮影するような業務の場合。覚えているつもりでも毎回まったく同じポジションで撮影するのは難しく、以前撮影した写真から同じアングルを探すのも大変です。
自動操縦なら、撮影する位置の座標、高さ、カメラアングルをセッティングするだけ。複数の撮影ポイントをプログラム・記憶することも可能で担当者が変わっても必ず同じ位置から撮影でき、業務の属人化も防げます。
現場を同じルートで周回させて動画撮影したい、といった際にも活躍するプログラムです」(鈴木さん)

より精度の高いRTK(※1)方式によるGPSを使用することで、太陽光パネルの点検でも大幅な効率化を図っています。

「ずらっと並んだ太陽光パネルに沿って飛び、撮影・録画するようにプログラムするんですが、当初GPSの精度が問題でした。どうしても2、3mずれてしまって、パネルではなく隣の道路を撮影して帰ってきてしまう(笑)。

これは2018年頃から使い始めたRTK方式によるGPS、非常に精度が高く誤差2、3cmに収まるシステムを使って解決しました。毎回ピタッと同じルートを飛び、現場に行かなくても撮影データから点検できるようになっています」(伊佐さん) 

※1 RTK:Real Time Kinematic/リアルタイムキネマティックの略称。4つ以上の衛星から信号を受信、ずれを補正することで精度の高い位置情報を得られる

工夫を凝らし、低コストでリアルタイム遠隔配信を実現

ドローンからの映像は、顧客側の担当者が現場入りすればコントローラーや外付けディスプレイ画面で確認できますが、遠隔地へのリアルタイム配信には専用アプリなどを使う必要があります。そこで、パソコンへのドローン映像の出力とビデオ会議システムを組み合わせることにより、低コストでのリアルタイム遠隔配信を実現しました。

「ドローンのシステムやアプリでの遠隔配信は高価な場合が多いんです。どうにかできないかと考えた末、パソコンの出力専用HDMI端子を入力に変換するアダプタを介してドローンの映像を取り込み、Zoom(ズーム)やTeams(チームズ)といったビデオ会議ツールの画面共有で配信する方法にたどり着きました」(伊佐さん)

「遠隔配信は、木がうっそうと生い茂った場所や台風時に木が倒れて立ち入れない場所にある電柱・電線の状況確認など、緊急時対応に役立つと考えています。ドローンならそういった場所に迅速に上空からアプローチして被害状況を把握することが可能です。
すでに何度か実践していて、名護市や恩納村の現場からドローンのカメラ映像を浦添市牧港の本部にリアルタイム配信し、碍子(がいし/電線とその支持物との間を絶縁する器具)や電線の状況を鮮明な画像で確認できることも証明済です」(鈴木さん)

雑談から始まった地域課題解決。ドローンによる有害鳥獣調査・駆除

電力設備や建設現場関連での活用が進んでいたドローン事業は、ひょんなことから宮古島の農家を悩ませていた有害鳥獣対策にも一役買うことに。

「2017年、別件で出張した宮古島での飲み会の席で、『イノシシが増え、畑を荒らして困っている』と聞いたんです。そこで思い浮かんだのが、ドローンと熱を感知する赤外線カメラの組み合わせ。
赤外線カメラは、変電所や鉄塔の異常検知に活用しようと導入していましたが、なかなか出番がなかったんです。地面の温度は低いので、体温のある有害鳥獣を感知できるのではないかと思い、提案しました」

宮古島では年に1度、石垣島から猟師と猟犬を呼び寄せ、巻き狩り(グループで狩り場を四方から取り囲み、獲物を追い込んで捕える)でイノシシの駆除を実施していました。その際、過去の目撃情報や糞などの痕跡をもとに狩り場を決定するのですが、数日~1週間ほど前の情報のため、降雨などでニオイが流れたり、イノシシがそのエリアから離れたりしている場合などは、成果がゼロになってしまう場合もあったそうです。

イノシシによる食害状況調査の動画キャプチャ。画面右、白く映っているのがイノシシ

鈴木さんたちは、まず駆除前日の夜にドローンで広範囲を調査。イノシシの行動データを記録し、共有しました。そのデータをもとに狩りを始めたところ、前日までイノシシがいた場所であり、ニオイがはっきり残っているため、猟師が「これまでとまったく違う」と驚くような反応を猟犬たちが見せたそうです。正確性・即時性の高い情報で、6頭の捕獲という成果につなげました。

また、鹿児島県の離島、徳之島ではイノシシが潜む畑の上空からドローンがとらえた赤外線カメラの映像を関係者のスマートフォンにリアルタイム配信することで、猟犬の鳴き声や音から察するしかなかったイノシシの位置特定をサポート。猟師がドローン映像を見ながら風下から近づくことで、ニオイに敏感なイノシシに気づかれず、イノシシを視認できる1mの距離まで接近することに成功しました。猟師は「この距離まで接近できれば、確実に仕留められる」とドローンを使った新しい狩猟に驚いていました。

さらに、イノシシ同様、農作物に被害を与えている野生クジャクの生息調査も行っているほか、前述の徳之島では天然記念物に指定されているアマミノクロウサギ(体長20~30cm)の姿もしっかりととらえました。

2018年には、赤外線カメラを搭載した複数のドローンを超高速・超低遅延・多数同時接続可能な5Gのネットワークで同時に運用し、AIにより映像を解析する鳥獣対策のアイデアが評価され、総務省主催の「5G利活用アイデアコンテスト」で審査員特別賞を受賞しました。

有害鳥獣が農作物に与える被害は全国的な課題。県内のみならず、県外からも調査・活用の需要が高まりそうです。

密なコミュニケーションとチャレンジ精神で、今後も新たなサービスを創出

電力設備や建設現場にとどまらず、地域の課題解決にも活躍するまでにドローン事業を成長させた沖縄エネテック。最近は、空だけでなく、水中ドローンを使った海中インフラの点検サービスにまで活躍の場を拡大ています。
それだけにとどまらず、外部機関との連携で、ドローン撮影データから太陽光パネルや電柱支持金具のさびや異常をAIで検出する実証も行いました。

現在は映像を目視で確認している事業に関しても、AI活用の可能性を探っています。
例えば、耕作地の雑草、害虫発生状況の検出、不法投棄パトロールの高度化、沿岸漂着ごみの実態把握、サンゴ調査の高度化など、ドローンとAIの組み合わせによる活躍の場は、ますます広がりそうです。

「私たちはもともと環境分野、水質や大気、臭気、振動などの調査を請け負う部署で、生物、物理、化学など、調査研究を専門にしている8名の集まり。機械や土木、電気の専門家は一人もいませんが、その分色々な視点からアイデアが生まれます。こんなこともできるのではないか、と試し、良い結果を得られたものを材料に営業に回りました。
トライアンドエラーは数知れず、失敗も数知れず。色々なトラブルに対処する中で業務の幅が広がりました」(鈴木さん)

ドローン事業では、受ける仕事すべてがゼロからのチャレンジ。顧客からの「こういうことはできないか」という声に応えるため、様々な発想やデジタル技術を組み合わせて実現していく推進力は、コミュニケーションと情報共有から生まれた、と伊佐さんは振り返ります。

「導入当時は首相官邸屋上や新幹線の線路脇に落下するといった事件・事故が多かったこともあり、ドローンに対する社会の風当たりは強いものでした。逆風の中からのスタートでしたが、だからこそ『ドローンが社会に役立つ取り組みは何でもやってみよう』と積極的に取り組めて楽しかったですね。
普段からメンバー間のコミュニケーションは活発。おもしろいことを探して共有したい、伝えたいという雰囲気があり、社内共有ツールでドローン関連の新情報や法律改正、その他仕事につながりそうな情報をシェアしたりもしています」

沖縄エネテックの大きな強みである密なコミュニケーションとチャレンジ精神。そこから生まれるアイデアから、次はどんなサービスが生み出されていくのか、注目です。

【会社概要】
会社名 株式会社沖縄エネテック
代表者 代表取締役社長 仲尾 理
所在地 沖縄県浦添市牧港5-2-1
TEL. 098-879-9031
事業内容
1.発電・送電・変電・配電・情報システム・通信設備工事の調査・設計 および工事監理
2.土木工事・建築工事・管工事の調査・設計および工事監理
3.環境調査、地質調査および用地測量
4.環境計量証明事業
5.国内外における地域開発、産業開発、経済開発、社会開発に係る 調査・計画・設計およびコンサルティング業務
設立 1994年5月10日
従業員数72名(2022年)
平均年齢44歳(2023年2月)

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