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佐渡山畜産は3代目の佐渡山安廉(さどやまやすきよ)さんが受け継ぐ創業50年の畜産農家です。沖縄市倉敷で約200頭の和牛を飼育・繁殖し、仔牛をせりに出すほか、自社生産の牛肉を提供する焼肉店の経営や、ふるさと納税の返礼品も取り扱うなど、幅広く展開しています。
主力事業は、繁殖に適した仔牛をせりに出す繁殖農家としての仕事です。優れた仔牛を生産する上で重要なのは、雌牛に適切なタイミングで種付けをすること。そのタイミングを示す雌牛の発情サインの見逃しは大きな機会損失につながるため、確実に発見できるよう努力を重ねてきました。
2019年から導入した牛の行動分析ツールは、この「発情サインの発見」を、遠隔から経験値を問わず可能にするITツールです。スマート畜産化を実現した佐渡山さんに、実感しているメリットなどについてお話を伺いました。

BEFORE & AFTER

朝夕20分、発情サインを示す牛を探すため牛舎を目視点検。熟練した佐渡山さんでも6回に1回ほどの見逃しは避けられない。飼育頭数は50頭だったが、発情を見逃しているかもしれないことが心理的な負担になっていた。
  • 牛が発情サインを示していることをスマートフォンでどこからでも確認できるようになり、見逃しはゼロに。データから『発情が始まった時間』『発情のピーク』『発情が終わる時間』などが見えるため新人スタッフでも判断可能になった。飼育頭数は200頭に増え、繁殖用の母牛以外に肉牛を飼育する余裕も出てきたことから、牛肉の生産量が倍増

ツールの導入で雌牛の発情サインの見逃しがゼロに

和牛の繁殖農家である佐渡山畜産にとって、雌牛の発情サインを発見することは何よりも重要な仕事の1つ。ですが、サインを正確に判断するには熟練の技術が必要で、いつやってくるかもわかりません。見逃さないために手間もかかっていた、と佐渡山さんは語ります。

「以前は、給餌や給水のために牛舎に行く際の朝晩の見回りで、牛の様子を見て判断していました。発情すると、隣の牛に乗りかかるなど動きが大きくなるんです。いつもと様子が違うことを頼りに目視で発見していたのですが、個体ごとに動きの大きさは異なり、その判断は経験を要するものでした。かかる時間は朝10分、夕方10分の合計20分程度でしたが、見逃しを防ぐために必ず牛舎に出かける必要がありました

佐渡山畜産の牛舎

職人技とも言える発情の判断は経験の浅いスタッフには難しく、必ず佐渡山さんが確認していましたが、それでも見逃すこともあったそう。「月に6回繁殖のチャンスがあったとして、1回ほどは見逃しがあり、勝率は8割程度でした」と振り返ります。

中央の柱に残る「発情発見棒」を載せていた金具

以前は目視のほか、牛舎のフレームごとに「発情発見棒」を設置。発情した牛が大きく動いて棒に接触すると枠から外れることから、棒が落ちているかどうかを目印にする方法を約30年間続けていたのだそうです。

種付けのチャンスは発情が始まってから長くても24時間しかなく、中でも最適なのは10時間経過前後。種付けに使用する精子は全国の良質な種牛から採取・冷凍されたもので、ストロー1本あたり約5万円と高額になる場合もあります。質が高ければ高いほど希少価値が高く、予約しても半年先まで届かないほど品薄になる場合もありますが、タイミングを見誤るとそうやって手に入れた精子が無駄になってしまうんです」

発情サインを抜け漏れなく正確に発見することは、こうしたロスを抑えることにもつながります。ツールの導入により精度が高まったことで、生まれる仔牛の数が増えたほか、せりで購入する仔牛の数も安心して増やせるようになり、牛舎全体での飼育頭数は50頭から200頭まで増加しました。

低コスト・低負担で種付けのタイミングを最適化

ツール導入のきっかけは、取引先の飼料会社からの紹介でした。スマート畜産とひと口に言っても、牛舎全体の環境の管理・自動制御や給餌給水の自動化といった大規模なサービスも存在します。「うちの規模では初期投資コストが見合わない」と見送ってきたスマート畜産サービスもある中で、佐渡山さんが導入に踏み切ったのは、課題と解決策が実情にマッチしていたことが理由です。

牛の動きを感知するセンサー

佐渡山畜産が導入した「U-motion(ユーモーション)」は、牛の首に装着されたセンサーが個体ごとの普段の動きを感知しデータ化。普段との差が大きい場合「発情サイン」と認識し、スマホに通知が送られる仕組みになっています。

「ハード面での導入作業は、牛の首にセンサーを巻くのと、牛舎に一つ受発信機を設置するのみ。後は、アプリ上で牛の個体情報の登録でした。作業は手持ちのスマホで可能で、それ以降のモニタリングもスマホをタップするだけでとても簡単です。牛が嫌がるかなと思いましたが、それも初めだけで、すぐに慣れた様子でした」

一頭一頭違う性格の個体ごとに個別化したデータが得られるので、精緻な発情サインの読み取りが可能に。また、データは過去に遡って確認でき、各個体が前回いつ発情したかをチェックすることで、より正確な判断ができているそうです。

アプリのホーム画面

「スマホでアプリを開くと、最初の画面に注意が必要な個体が表示されます。以前は発見時に推測するしかなかった『発情が始まった時間』『発情のピーク』『発情が終わる時間』まで正確にわかるようになったことで、最適な種付けのタイミングを計れるようになりました。また、個体によって動きが小さく明確でない場合は、発情周期である21日分遡ってデータを見ます。そこでも少し動いているようなら、発情していると判断できるんです」

飼育する200頭のうち、繁殖母牛は60頭ほど。このうち4~5頭が合わせて月に10回程度発情の兆候を見せます。平均して3日に1度の頻度で起きるサインを見逃さないよう神経を尖らせていましたが、現在は24時間365日センサーが見守っていることが安心材料になっているとのこと。さらに、熟練した観察眼を持つ佐渡山さん以外の新人スタッフでも可視化されたデータから発情を発見できるようになりました

「コストは1頭あたり月額500円で、50頭に使用しているためトータルの費用は2万5000円。見逃しがなくなって心理的な負担が減り、熟練した作業員を1人雇えているようなものなので、コストパフォーマンスは優れていると感じています」

スマート畜産で、より高品質な仔牛の生産を目指す

種付けの結果生まれる仔牛は、1頭約500万円の高値がつくものもあれば、無料でも引き取り手がない場合もあるほど玉石混交です。佐渡山さんは20年ほど前に高品質な仔牛の生産を志し、代替わりを経てようやく1頭の優秀な雌牛を飼育できるようになったと言います。

「最終製品である牛肉の質や価格を決めるのは、母親である雌牛です。このため、全国・全県の肉牛農家は実績のある雌牛から血統の良い雄の種付けで生まれた仔牛を先を争ってせり落とすんです。繁殖農家として人気の高い仔牛を生産するには、こうした雌牛を何頭飼育できるかが勝負。うちでは15年前に伊江島でせり落としてきた『きよか』という雌牛が非常に優秀で、『きよか』から生まれた系統を大切に殖やしているところです」

佐渡山畜産3代目の佐渡山安廉さん

優秀な雌牛から子孫を繁殖させるには時間がかかります。子から孫、孫からひ孫へと世代を重ねてせりに出す仔牛の単価を上げていく生業において、ロスなく種付けできることは大きな後ろ盾となるのです。

また、最も重視している雌牛の繁殖に手がかからなくなったことで、肉牛の生産にもウェイトをかけられるようになりました。その結果、牛肉の生産量は2倍に増え、今後半年で飼育頭数を50頭増やしたいとも話す佐渡山さん。「分娩サイン発見のリモート化についても検討していて、今後の精度向上に期待しています。どんどん新しいツールが世に出てくるので、費用対効果を見極めながら積極的に取り入れていきたい」と、さらなるITツールの活用にも前向きです。

スマート畜産は、事業拡大に意欲を持つ若手畜産農家を力強く後押ししています。

屋号  佐渡山畜産
事業内容 肉牛の繁殖・育成、牛肉の販売 (一貫経営農家)
代表者 佐渡山安廉
所在地 沖縄県沖縄市倉敷122
創業  1973年
従業員数 3名
従業員平均年齢 30歳

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