- 事例紹介
- IT活用
妊産婦向け整体院「ふうふや」と、そこから派生した事業を展開する株式会社ふ々屋(ふうふや)の山中錠一(やまなかじょういち)さん、基乃(きの)さん夫妻。2015年に最初に立ち上げた整体院「ふうふや」の創業準備中から、無料のブログやSNSをフル活用してファン作りに取り組んできました。反響の有無が如実にわかるオンラインコミュニケーションツールのメリットを、顧客ニーズの把握や集客、その後のサービス展開に生かし、7期連続プラス成長を遂げています。
また、ふ々屋が顧客とする産前産後の母親の悩みに寄り添い、必要とされるサービスを一つ一つ具現化していく上で欠かせない存在が、オペレーションを省力化するデジタルツールです。個人事業の整体院からスタートし法人化にこぎつけたふ々屋が、SNSマーケティングとデジタルツールのメリットをどのように活かして成長してきたのか、実践に基づくノウハウを教えていただきました。
オンラインでサービスを展開し、「午前3時、授乳中に予約する」産後ママのニーズを受け止める
山中さんは理学療法士として病院に勤務した後、2015年に整体院「ふうふや」を創業しました。保険診療の対象外で病院では施術がしにくい、産前産後の母親特有の体をケアするための独立でした。
「赤ちゃんの重さを支えている妊娠中や、出産で骨盤が大きく動いた後、腰などに慢性的な痛みを抱えるお母さんは多くいらっしゃいます。当時は、そうした痛みに特化した整体院は沖縄県内にありませんでした。病院に勤務して日々お母さんたちと接する中で、ケアしたいというニーズは確実に存在すると感じ、県外にも勉強に出かけて独立の準備を進めました」
施術家としての知識や腕を磨くのと同時に山中さんが始めたのが、ブログの執筆やSNSでの情報発信といったオンラインでの展開でした。
開業前の3年間、基乃さんと一緒に専門的な知識やノウハウをブログ上で公開したり、開業準備の進捗を伝えたり、当初は様々なコンテンツを発信していたそうです。
「書いていくうちに、ブログプラットフォームのアクセス数ランキングで上位を取れるようになりました。『誰かはわからないけれど、何だかすごい人がいる』という印象を作れたのではないかと思います」と、ブランディングを進めつつ、Facebookでは地域のイベントに出店して知り合った人々と個人アカウントでつながりを増やしていきました。
「開業したら公式Facebookページを開設し、集客エンジンとして活用しようと考えていました。実際に、開業後は個人アカウントにブログのURLを載せ、いいね!してくれた人にはフォローをリクエストすることを徹底。1ヶ月に3万円ほどかけて広告も出稿し、3ヶ月でフォロワーを2000人ほどに増やしました」
また、開業当初から予約の受付と管理はオンラインに集約。ここでは、24時間365日稼働するデジタルツールで顧客との接点を広げました。
「予約状況を観察すると、2~3割が夜中の2時や3時の時間帯に入っていました。夜泣きした赤ちゃんに授乳しながら、体の辛さを解消しようと、もう片方の手で予約してくださっているのではないかと推察しています。もし営業時間内に電話だけで予約対応していたら、こうしたニーズはキャッチできません」
このように、まちの整体院である「ふうふや」が順調に顧客を増やしてきた背景には、ユーザーのニーズを取りこぼさないデジタルツールの活用、そして、戦略と地道な取組にもとづくSNSの活用がありました。
SNS発信への反応が二つ目の事業「こどもや」創業の着眼点に
「ふうふや」の開業後、来店した顧客にアンケートを取ると、来店のきっかけとして「知人の紹介」「産婦人科の紹介」と並んで「Facebookを見て」が多く挙げられており、狙い通り、SNSが集客エンジンとして機能していました。
その秘訣の一つは、顧客の細かいニーズを素早く集められるというSNSのメリットを活かした情報発信です。
「整体院を知ってもらうきっかけとしてFacebookにブログのコンテンツを投稿しながら、インプレッション数(投稿が見られた回数)やいいね!数を逐一チェックしていきました。すると、整体の技術の話などよりもはるかに人気が高かったのが、僕ら夫婦のパートナーシップや人生観、仕事観、子育て観についての投稿だったんです。
そこで、きれいな写真を載せようと一眼レフを買い、夫婦でおいしいと評判のお店に行き、許可を得て写真を撮って投稿したり、子連れで行ける飲食店の情報や夫婦喧嘩の話を書いたり。子育て中のお母さんたちに親しみを持ってもらえるリアリティを意識しながら、暮らしや子育てに役に立つ情報を発信するようになりました」
ニーズを押さえた情報発信の結果、ふうふやの投稿はさらに多くの人の目に届くようになり、現在まで続く集客の要に。
さらに、SNSの反応から得た情報は事業拡大の後押しにもつながります。
順調に事業を拡大していた「ふうふや」でしたが、2018年頃には、山中さん一人が施術する事業形態での”売上の天井”が見えてきたと言います。
そんな折、年間を通して学ぶ経営者養成講座を受ける機会があり、収入の柱を増やし組織化する意志が芽生えたという山中さん。そこで、新たな事業として打ち出したのが、妻である基乃さんが主体となり、発達に合わせたプログラムを提供する幼児教室「こどもや」でした。
以前より、整体院の顧客からあった「基乃さんがブログで発信している子育ての手法について、講座を開いてほしい」との声を受け、不定期で講座を開催。さらには、「基乃さんにうちの子を預かってほしい」という要望のほか、子育て観や手法についてのコンテンツはSNSでも人気で集客の見通しが立っていたことも後押しとなり、「こどもや」をスタートさせたのです。
コロナ禍で加速した労働集約型から知識集約型への転換
「ふうふや」と「こどもや」という2つの事業を軌道に乗せた山中さんですが、「労働集約型のビジネスモデルから脱却しなければ事業の成長は見込めない」と、さらなる成長のための芽を育て始めます。
「持っている知識やノウハウを、テキストや音声、動画などにしてインターネットを通じて商品化すれば知識集約型の事業が作れる。基乃はすでにクローズドな講座を開講していましたし、僕の方にも『施術のテクニックを教えてほしい』といった要望はいただいていました。競合が増えるのを避けたくてお断りしていたんですが、整体院は安定して売上を上げられる状態になっていましたし、発想を転換すると決めました」
こうして山中さんは、新たな形態の事業の計画を温め始めます。SNSのフォロワーに、距離の問題で「ふうふや」と「こどもや」という既存サービスを受けられない県外在住者が多数いて、彼らに対するサービス提供が見込めるとの考えも後押しに。
また、対象顧客は、それまでの2事業と同じ産前産後の母親に加え、山中さんから施術の技術やスモールビジネスの経営ノウハウを学びたい人々に拡大しました。ただし、両者は大きく重複しているのだそう。
「先に始めた2事業で、産前産後のお母さんたちがどんな気持ちを抱えているのか、深いニーズを知ることができました。お母さんたちは体や子育てだけでなく、子供を産んでライフステージが変わった自分自身の仕事や人生をどう作っていけばいいのかに悩んでいます。もともとSNSで発信してきた『夫婦で脱サラして独立し、専門技術で新しい分野を開拓して働き暮らすライフスタイル』に興味を持ってお客様になってくれている方々なので、自分らしく人生を選択したいという志向を持っています。僕らが実践の中で培ってきたノウハウを伝えるオンライン講座を立ち上げれば、その願いや悩みにも応えられると考えたんです。」
山中さんは、産前産後の母親向けの講座とプロを目指す人向けのオンライン講座を開講。月額継続課金モデルを採用し、過去の講座のアーカイブは一定数視聴し放題、毎朝のラジオ配信で継続的に情報提供する設計にしました。また、Facebookのグループ機能を活用したオンライン交流、定期的に参加者が顔を合わせるオフ会などの場も提供し、一方的に情報を受け取るだけでなく、参加者同士がつながって産前産後の生活を豊かにするコミュニティを形成しています。
講座を立ち上げた当初は、オンラインに抵抗を持つ利用者も多く、リアルで開催していたそう。ところが、程なくしてコロナ禍で外出が制限されることになり、相対的にオンライン受講への抵抗感が軽減。オンラインに切り替えたことで県外や県内遠隔地からの参加者が増え、プロ向け講座は、県外メンバーが7割を占めるまでになりました。こうして立ち上がった三つ目の事業「アカデミや」は、約3年で200人以上のメンバーを抱える収益の柱の一つに成長しています。
SNSで作ったコミュニティがビジネスを育てるエコシステムに
「アカデミや」を立ち上げたメリットは、収益源の拡張に留まりません。単体でも成長を続けている整体院「ふうふや」を支えるスタッフは、「アカデミや」の受講者から採用を行っており、現在に至るまで一般公募による採用は一度もしていないと山中さんは話します。
「アカデミやで自ら学んでくれているので、採用のミスマッチはおろか社内研修すら必要なく、とても助かっています。また、アカデミやのプロ向けコースで専門知識やスキルを活かした起業にチャレンジする際、商品のプロトタイプをお母さんたち向けコースのメンバーに対して試せる場を提供しています。
「ふうふや」の顧客がこどもやの顧客になるという流れは以前からあったのですが、顧客がスタッフになったり、顧客同士の関係性が価値になったり。アカデミやをオンラインで始めたことで、多様で複線的なメリットが生まれています」
こうした相乗効果がスムーズに生まれているのは、山中さん夫婦が自ら発信してきた価値観がSNSを通して伝わり、共感した人々が集まっているから。投稿をスタッフに任せる時期もありましたが、入口となっているSNS発信の重要性を改めて感じ、山中さん自身で投稿するスタイルに戻しました。
「言葉や写真の選び方、デザインの質など、細部ににじみ出る価値観や知識、ノウハウや意識の深みは、経営者にしか出せないのではないかと思っています。そこから伝わるものをいいと思ってくださる方、言い換えればファンを集められているから三つの事業がうまく噛み合っているので、SNSへの投稿はやはり経営者の仕事なんです」
デジタルツールによる自動化・効率化が事業の拡大を支える
ふ々屋では、第4の事業として産前産後の体に必要な栄養素をすべて含むサプリメントのOEM開発と定期販売でも売上を拡大中。
矢継ぎ早の新規事業展開を下支えするのは、各事業の予約や申し込み・決済・決済後の案内や内部での売上管理を、デジタルツールを駆使してほぼ全自動化している体制です。
「ふうふや」の整体サービスの予約受付には、サロンの予約獲得・管理の専門サイトを活用。施術者や様々なオプションなど、複雑な予約も一括で管理・運用しています。また、各種講座やサブスクリプション、サプリメントの集客・販売・顧客管理は、自動返信メールなどの機能が充実し、Paypal(ペイパル)やstripe(ストライプ)といった決済サービスと連携可能な「リザーブストック」というサービスで一元的に管理。
サプリメントの紹介にはデザインやプログラミングの知識がなくても簡単にホームページを作成できるサービスを活用するなど、無料または低価格で使える様々なサービスを組み合わせています。
こうして、事業の運営にかける手間やコストを最小化することで、商品の価値を顧客に伝える情報発信、顧客を集めるマーケティング、講座のコンテンツ作りに注力できる環境が整えられているのです。
SNSという無料ツールを最大限活かし、サービスのPRにとどまらず、価値観やライフスタイルを発信することでファンコミュニティを作り、交流から発見したニーズを起点に新たなサービスを立ち上げていく。ふ々屋の事業展開は、多くの個人事業主や中小零細企業のお手本とも言えるものではないでしょうか。
株式会社ふ々屋
所在地 沖縄県北中城村字島袋15番地ライカムアパートメント305
代表者 代表取締役 山中錠一
従業員数 14名
従業員平均年齢 35歳