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大事なのは「デジタル」で頭でっかちにならないこと

何が最も大きな課題なのか、その課題を効率的に解決するにはどうすればよいか。大事なのは課題の把握で、デジタル技術の活用が最適かどうかは慎重に判断すべきですが、デジタル技術は、圧倒的に業務効率を高めてくれると思います。その時々の最新の技術を使って業務を効率化させることは、人類がこれまでやってきたことと何も変わりません。現代の最新技術(=デジタル)を使って企業課題の解決を進めていくというだけのこと。それが企業のDXにつながっていきます。

DXは仰々しいことでも、デジタルだからすごい、ということでもなく、荷物を牛で運ぶか、トラックで運ぶか、それと全く同じ議論です。圧倒的に効率を高めてくれるテクノロジーを、業務プロセスのどこで、どのように使うべきか。現状をしっかり把握した上で、こういった議論を始めるべきだと思います。

デジタル化を始めると、スタッフ側から「あれも、これもデジタル化したい」という要望が出てきますが、すぐに対応することはしませんでした。デジタル化で余計に負荷がかかる場合もあるので、冷静に、バランスを見て判断する必要があるからです。

何でもデジタルをベースにするかというと、そうでもありません。例えばデータで売上、原価、在庫量、棚卸し、天候、季節のイベントなどを細かく見る一方で、店長やスタッフの感覚も大事にしています。データ上ではこの時間帯はこういう客層が多い、ということは見えますが、実は店舗の外にご家族が待っている、ということは見えません。定量的なことに加え、“データだけでは見えない奥行き”、人の感覚も大事にしています。

改革をスピーディーに進められたのは飲食業界の慣習や既存のやり方にこだわらなかったから!?

大学を卒業してすぐ家業を継ぎ、現場を通して経営を学びました。本はたくさん読みましたが、特に大きかったのは県外で活躍されている経営の師匠との出会いでした。家業を引き継いで4、5年くらいたった頃、経営の勉強会でたまたま席が隣だったことがご縁で、今も交流が続いています。

DXをスピーディーに進められたのは、私自身に「飲食業をやっていく」というより「会社を経営する」という感覚が強かったからかもしれません。あくまで経営にフォーカスしていて、その業種が飲食だったということです。飲食業界の慣習や既存のやり方に全くこだわりがなく、自由な発想ができたことは大きかったかもしれません。

SNSでの投稿もデジタルを利用した業務改革の一つ!

マーケティングとしては「どこでも買えること」「人々の目や記憶に残ること」を重視していますが、これには人々に(商品を)想起し続けてもらうこと、話題になり続けることが大事です。

「どこでも買えること」と「人々の目や記憶に残ること」の実際の取り組みとして、2019年から沖縄県内のファミリーマートで、天ぷら販売をスタートさせました。これを実現するためにはファミリーマート全330店舗に毎日一定量の提供が必要で、製造工程の見直しやさまざまな調整も行いました。

また広告・プロモーションの一種として、SNSで日々情報発信をしています。これも言ってみれば、マーケティングのデジタル化と言ってもいいかもしれません。

モバイルオーダープラットフォーム「FastPick(ファストピック)」

「FastPick(ファストピック)」は業務フローの改善から生まれた私たちの新しいビジネスです。コロナ禍でスタートした印象が強いですが、もともとは「上間弁当天ぷら店」でやりたかったこと。研修でアメリカに行った際、現地の口コミサイト「Yelp(イェルプ)」で飲食店を調べていたのですが、コミュニケーションが面倒に感じて結局使わなかったんです。2018年頃に始まったスターバックスのモバイルオーダーは、スマートフォン上で商品を選べ、決済までできる点がとても便利だと感じました。そこで、「こんな仕組みを作ろう!」と考えたんです。「上間弁当てんぷら店」だけでなくさまざまな店舗が網羅されていればもっとたくさんの人に使っていただけるのでは、と、スタッフと話を膨らませていきました。

「FastPick」はよくデリバリーサービスと比較されますが、単価1,000〜1,500円ほどの商品をデリバリーサービスにすると、手数料が高くついて店舗側の負担が重くなり、デリバリースタッフの報酬も時給換算すると決して良くありません。デリバリーの属人性、店舗側の負荷、沖縄のマイカー所有率の高さなどを考えると、モバイルオーダーでテイクアウトしてもらうモデルが良いと判断しました。現在沖縄では80店舗以上が登録し、40,000人以上のユーザーを獲得するまでに成長しました。うれしいことに宮崎県でも活用され始め、じわじわと浸透していっています。

「FastPick」をスタートして分かったのは、レストランやカフェなどとテイクアウト専門店では売れる商品やサイズ感が全く違うということ。飲食業はマーケットがかなり細分化されています。外食産業がテイクアウトに参入しても細かくチューニングを変えられず、なかなかうまくいかない。やはりテイクアウト専門店が強いですね。

オーダーデータの蓄積も進み、どんな時にどんな商品が売れているかといったことも分かるようになってきました。さらに分析を進めていけば、デジタルに特化した飲食店業界の未来像、新しい業態の可能性が見えてくると考えています。

経営コンサルティングの「U&I株式会社」と県内企業に投資する「SCOM株式会社」

9年間で「上間弁当天ぷら店」を年商6億円企業に成長させた経験とノウハウを基に、経営コンサルティングを行うU&I株式会社を設立しました。コンサルティングの視点で大事にしていることの一つが、「ローカライズ」)です。以前と違って都会のトレンドのキャッチアップが地方でも早くなっています。都会発の価値観が変わり、今後は“都会でできないこと”に価値が見いだされていく。そこにローカルのテイストを重ねていく…そうした取り組みにヒントがあると考えています。

その延長で、沖縄でビジネスをする人を応援したいと考え、投資会社「SCOM株式会社」も立ち上げました。頑張ろうとする “人に投資する”という感覚です。経済のリアルな動きが見られるので、私自身本当に楽しんでいます。

先ほど「ローカライズ」と言いましたが、私は、沖縄県内でDXを押し進めていくにもこの視点が大事だと思っています。沖縄の人が沖縄らしさを取り戻せるか。ここで言う“沖縄らしさ”とは、“チャンプルー文化”で多様性を認め、受け入れるということ。いいものは取り込んでいく。その結果、残るものが沖縄らしさになると思います。斜に構えたり、排他的になったりせず、デジタルでもそうでないものも、気軽にトライする。ローカルをアップデートしていくことで、強い企業・商品・サービスになる。それが経済の本質にもつながりますし、そうあってほしいと思っています。

おまけ

<上間氏のインプット術>

最後に、超多忙な上間氏へ仕事に対する姿勢について質問をぶつけてみた。アウトプットをし続ける上間氏のインプット方法は…。

●上間氏の“アップデート”はTwitter!

本は経営を引き継いだ頃からよく読んでいます。新聞は県内紙だけでなく日経新聞なども欠かさず目を通します。最近はTwitterからも情報を得ていますね。飲食業界で活躍されている方、海外で飲食チェーンを展開されている方をフォローし、投資の仕事を始めたこともあって、金融・投資系の人のコメントやイベントもチェックしています。そうした方々がすすめている本や有料のメルマガなどをチェックすることも多いですね。昔よりも情報が人に紐づいていると感じます。

※ローカライズ:ソフトウェアやプログラムを、作られた国とは異なる言語圏の国や地域(local)でも利用できるようにすること

【PROFILE】
上間喜壽(うえま・よしかず)
株式会社上間フードアンドライフ代表取締役会長
U&I株式会社代表取締役社長
SCOM株式会社取締役

1985年沖縄県うるま市生まれ。法政大学経営学部卒業後、2億円の負債を抱え財務トラブルに陥った家業の立て直しのため代表に就任。就任後9年で売上を1億円から6億円に成長させ、お弁当を軸に、ケータリング、沖縄そば等事業多角化を推進。
U&I株式会社では、事業立て直しの経験から得た実践的なノウハウを、セミナー活動やマネジメントコンサルティングを通じ経営者に伝えている。沖縄の中小零細企業から大企業まで、経営戦略、マーケティング、会計、財務、ITシステム等を用いてクライアントの経営課題解決を支援する。「沖縄の企業活動を変えていく」というミッションを達成するために日々奮闘中。

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