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産業廃棄物や一般家庭からの廃棄物の収集・運搬・処理・リサイクルを担う街クリーン株式会社(以下、街クリーン)は、1989年に南城市で誕生しました。2000年から代表取締役を務める赤嶺太介(あかみねだいすけ)さんは、「地域に恩返しできることを」との思いから、10年以上、第二・第四土曜日に地域の清掃活動を続けています。
もっと効果的な方法はないか、また、自治体や地域住民との連携を深められないか。そう考えていた赤嶺さんが導入したのが、科学技術で環境問題の解決を目指すスタートアップ、株式会社ピリカ(以下、ピリカ)が開発した、スマホで撮影した動画データをAI分析し、ゴミの位置や数量をマップ上で可視化するごみ分布調査サービス『タカノメ自動車版』です。
2023年7月から、地域をきめ細かく回るゴミ収集車10台にアプリ搭載のスマホを設置し、データ収集が始まっています。自治体へのデータ提供や民間の清掃活動との連携も視野に入れた、ITをフル活用したSDGsの取り組みについてお話をうかがいました。

沖縄を世界で一番きれいな島に。ポイ捨て可視化が啓発につながる

赤嶺さんと『タカノメ自動車版』を開発したピリカの代表、小嶌不二夫(こじまふじお)さんとの出会いは、10年ほど前の業界団体の会合。小嶌さんの環境問題解決への熱意を知った赤嶺さんは、当時起業したてだったピリカに協賛し、以降も継続して支援を続けてきました。
2023年4月、赤嶺さんは『タカノメ自動車版』の案内を受け、「得られたデータを自治体に提供し、清掃活動や施策立案に役立てたい」というビジョンに共鳴。さらに、清掃活動で感じてきた課題解決の糸口になると感じたそうです。

街クリーン株式会社代表取締役の赤嶺さん
2000年に事業承継、地域貢献活動にも力を注ぐ代表取締役の赤嶺さん

赤嶺さん
「第二・第四土曜日の清掃活動は、業務時間内の約30分、2カ所で行っています。お世話になっている地域の方々のために役立つことを、と始めた取り組みですが、2週間後、きれいにしたはずの場所にまたゴミが落ちていることも多いんです。
私たちは企業の廃棄物を処理・リサイクルしています。産業活動を通して出たゴミは企業の責任のもときちんと処理されているのに、生活ゴミはポイ捨てされてしまう。これは一人ひとりの意識の問題です。ゴミをポイ捨てする人を減らしたい、そのために啓発活動が必要だとずっと考えていました。どんな場所にどれだけゴミがあるかを可視化することがそれにつながるのでは、と感じたんです」

赤嶺さんの心には、日本有数の観光立県である沖縄は世界で一番の観光地を目指すべき、そのために世界で一番きれいな島にしたい、という思いもありました。

赤嶺さん
沖縄が観光地としての価値を高めるひとつの方法が、環境への意識が高いと認知される地域になること。多くの観光客を呼び込めれば、様々な産業にプラスの効果が波及していきます。旅行先の周辺道路にゴミが落ちていても誰も喜びません。『沖縄ってすごい、ゴミひとつ落ちてない』。そんな感動を感じてもらえる地域になれればと思っています」

地域貢献やSDGsの取り組みに高い意識を持っていたことに加え、廃棄物処理業のイメージアップ、企業ブランディングにつながるという思いも後押し。『タカノメ自動車版』導入が決まりました。

画像解析からマップ化まで全自動。10台のゴミ収集車に『タカノメ自動車版』を搭載

2023年7月20日、街クリーンが所有する20台のゴミ収集車のうち、地域を細かく回る10台に『タカノメ自動車版』搭載のスマホ設置が完了。データ収集が始まりました。

街クリーンのごみ収集車に設置された『タカノメ自動車版』搭載アプリ
街クリーンのゴミ収集車に設置された『タカノメ自動車版』

使い方はいたって簡単で、運転開始時に電源ボタンを入れるだけ。撮影のオンオフは運転を感知して自動で行われます。走行中にはカメラを通して動画が撮影され、そのデータはサーバーへアップロード。蓄積されたデータから、独自開発のAIが500mlペットボトル以上の大きさのゴミとその数量を検出、ゴミにチェックが入って静止画として保存、位置情報にもとづきヒートマップとして可視化されます。動画撮影開始以降のこうしたプロセスはすべて自動です。

ごみを検出すると静止画が保存され、数量と地点が記録される
ゴミを検出すると静止画が保存され、数量と地点が記録される

ドライバーの平均年齢は45~50歳程度。設置時には驚きもあったようですが、スマホの電源を入れる以外の操作は特に必要ないこともあり、大きな問題なく受け入れられました。
街クリーンは、2年ほど前には従業員全員にスマホを配布し情報共有に活用、労務管理もデジタルに移行し、安全運転への意識を高めるためのAI搭載ドライブレコーダーを導入。取引先には産業廃棄物処理に必須の産業廃棄物管理表(廃棄物が適正に処理されていることを確認するための書類)、「マニフェスト」を紙から電子へと移行する働きかけも行っています。社内外でデジタルツールの活用を進めてきたことも、スムーズな導入につながった理由と言えるかもしれません。

撮影中の操作は必要なく、撮影中の画面も表示されません。これは、映像に気を取られて脇見運転してしまう、といった危険を防ぐため。また、道路を撮影する動画には人が映り込む場合もありますが、個人情報保護のため人の検出も可能になっており、自動でモザイク処理が施されます。ドライバーや歩行者の安全とプライバシーを守りながら使用できるよう配慮されている点も大きな特徴です。

現在も、祝日を除く月曜日から土曜日まで、本島全域、主に中南部で稼働している街クリーンの『タカノメ自動車版』。2024年1月までのデータ分析報告も提出されています。報告からは、何が見えてくるでしょうか。

約半年のデータから得られたもの。運転することがダイレクトな社会貢献にも

約6カ月のデータから作成されたヒートマップ。赤い色が濃いほどごみ検出量が多い
約6カ月のデータから作成されたヒートマップ。赤い色が濃いほどゴミ検出量が多い
調査結果
調査期間:180日間(2023年7月20日から2024年1月15日まで)
走行距離累計:3.8万km
走行市町村:那覇市、宜野湾市、浦添市、名護市、糸満市、沖縄市、うるま市、南城市など
撮影枚数:313.6万枚
検出されたゴミの数:28.9万個
撮影距離あたりの検出ゴミの数:7.6個/km
※参考データ:同期間のタカノメ全データ(海外での撮影含)は5.1個 / km

 

検出されたゴミの量は28.9万個、撮影距離あたりの検出ゴミの数を同期間のタカノメ全データ5.1個 / kmと比較するとやや多い7.6個/kmとなっています。

赤嶺さん
「どこにでもゴミは落ちているんだなあ、と感じます。赤の濃い、ゴミの多い場所もいくつかあるので、どんな環境なのか現地を見てみたいですね。
検出できるのは500mlペットボトル以上の大きさで、道路に落ちているもののみ。ピリカさんも同意見ですが、植え込みや草むらの中にはもっとあるだろうと考えています。
清掃活動をしたことのある方は良くわかると思うんですが、路上にあるゴミは少なく、植え込みや草むらの中にはその何倍ものゴミがあります。ポイ捨てする人にも負い目があり、隠れて捨てているんです。
そうした良心に訴え、押し付けでなく、自ら行動を変えてもらうような働きかけができればいいなと思っています」

ゴミ収集車のドライバーたちからは『誇りと使命感を感じる』といった声も聞かれているそうです。

「ポイ捨てごみ調査中」のステッカーからの反響も大きい
「ポイ捨てごみ調査中」のステッカーからの反響も大きい

赤嶺さん
「車両の『ポイ捨てごみ調査中』のステッカーを見て、地域やゴミ収集先の方々に声をかけられることが増えたようです。地域のために車を運転している、自分の仕事が社会貢献につながっているとダイレクトに感じられるようになり、ドライバーの自尊心やモチベーションも高まっていると感じます」

自治体・民間団体との連携で、様々な活用が期待されるゴミ分布調査データ

こうして得られたデータは、ゴミの多い場所のピンポイントでの特定や同地点の時系列変化を追うことも可能なため、県や市町村といった自治体などに共有することで様々な活用が可能です。
例えば清掃活動や環境対策施策の実施前/実施後の効果測定、環境管理や廃棄物処理の方針・施策策定、その意義や効果の説明根拠や、不法投棄対策・清掃活動イベントの効果の最大化などに大きな力を発揮すると考えられます。

赤嶺さん
「ビジネスへの展開という視点はまだありませんが、社会貢献、SDGsにつながる活動の一環として、データを県や市町村に提出して施策や清掃活動に役立ててもらう、民間企業や団体で実施しているビーチクリーンやゴミ拾い活動とコラボする、といった情報提供、連携ができればと思っています。
ヒートマップでゴミの多い場所少ない場所も一目瞭然なので、ゴミの多い場所で重点的に清掃活動を行う、といった形で生かせたらいいですね」

ピリカの開発チームによる『タカノメ自動車版』のアップデートは日々進行中。現在は道路の白線の剥がれなどにも反応してしまうため500mlペットボトル以上としている検出ゴミの大きさも、より小さく、精度を高める方向へと動いています。
また、「人が多く集まる市街地や観光地は相対的にゴミが多い」「人目につきにくい山道にゴミが多い」といった仮説も見えてきているそうです。今後は街クリーンとの連携を深め、現地を通るドライバーにしかわからない情報などともすり合わせながら、どんな場所でポイ捨てが起きやすいのか、仮説検証を具体的に進めていくことも検討されています。

ピリカの理念、取り組みは本当に意義のあること。参加して応援しつつ、県民の意識啓発にもつなげたい」と語る赤嶺さん。
地域の美観を陰から支え続けてきた街クリーンのごみ収集車は、新たな役割を得て躍動しています。

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