ITを活用したモジュラー型(優れた性能を持つ既存の部品を組み合わせ、短期間・低コストで製品開発を行う方法)陸上養殖装置で「どこでもだれでも陸上養殖ができる仕組と文化を作ること」を目指して2020年に誕生した株式会社ARK(アーク/以下、ARK)。沖縄の拠点では、高級魚・クエに引けをとらない味わいを持ちながら、生育期間が短く病気に強いアーラミーバイ(ヤイトハタ)の本格養殖も始まり、その実現への一歩を踏み出しています。
琉球大学をはじめとする大学・研究機関や企業とも連携の輪を広げ、漁獲生産量の減少、就業者の高齢化・後継者不足、タンパク質危機といった課題に向き合い、地域経済振興にも一役買う。未来の海と漁業への強い思いで取り組みを進める代表取締役COO・吉田勇(よしだいさむ)さんにお話を伺いました。

急激に進む海の異変と漁業の課題。突破口はITをベースにした「陸上の小さな海」

日本の漁業従事者は、2003年の23.8万人から2023年には12.1万人にまで減っています。65歳以上の割合は39.2%を占め、高齢化・後継者不足が顕著です。近年の激しい気候変動は大幅な海水温上昇を招き、漁獲量は減少、生息地の変化により「なじみのない魚」として安値で取引される魚種も増加しており、彼らを取り巻く環境はより厳しさを増しています。さらに、2050年までには「タンパク質危機」(食用タンパク質の需要が供給量を上回るとされる現象)の発生が懸念されており、漁業振興は大きな課題となっています。

吉田さんは10年ほど前から、海の異変を肌で感じていました。

吉田さん
「素潜りと熱帯魚の飼育が趣味で、神奈川県の小さな漁村である真鶴(まなづる)町の海に毎週のように潜っていたんです。水温の上昇と海藻類の種類と量の変化は急激で、どんどん熱帯化していくのを感じ、何か自分にできることはないだろうかとずっと考えていました」

代表取締役COOの吉田さん

水道配管や自動車整備、溶接など様々な技術職や営業職を経験し、独学でプログラミングを身につけた吉田さんは、あるIT企業で志を同じくする竹之下航洋(たけのしたこうよう)さん、栗原洋介(くりはらようすけ)さんに出会います。そうして立ち上げられたのがARKです。
「海を休ませるために、陸上に小さな海をつくる。」という、海、ひいては地球環境への思いの深さがにじむビジョンが示す通り、吉田さんたちが着目したのは養殖。中でも、台風や高潮、赤潮といった自然災害の影響を受けにくく、排泄物や食べ残しの餌、薬剤等による海洋汚染といった生態系への影響を最小限に抑えられる陸上での養殖でした。

吉田さん
「電気が必須のITと、塩を含んだ海水がつきものの漁業とはとても相性が悪いですよね。だからこそ作り込むおもしろさもありますが、そのせいで漁業のIT化は第一次産業の中でも遅れていると感じます。
でも、長い歴史の中で、セリのようなアナログでも非常に優れた効率化の仕組みが培われ、音波を使った魚群探知機といった漁に必要な技術はきちんと活用されています。環境の変化によって必要性が高まった陸上養殖にはITの良さを生かせる部分も多くあり、私たちが役に立てると思いました」

これまでの漁業の取り組みに敬意を払いながら、最小限の活用にとどめられてきたIT技術を加えることでどんな貢献ができるかを探る。その挑戦は、これまでの陸上養殖に画期的な変化と可能性をもたらすことになります。

大型・単一種・大量生産から小型・多品種・少量生産へ。前提の転換で陸上養殖の課題を超える

陸上養殖にも、様々な課題がありました。初期費用やランニングコストがかさむこと、大きなスペースを必要とすること、水質や水温をはじめ様々な管理にかかる手間と人手、疾病などが起きた場合の大量感染・大量死リスク、単独魚種の養殖しかできないことなどです。従来は一定の生産量を確保するために大規模な設備での養殖が前提だったことから、これらは避けては通れないものでした。

ARKは「小型分散化」という新たな提案とIT技術の活用でこの前提を鮮やかに転換します。2023年3月にリリースした「ARK-V1」は、9.99㎡という駐車場1台分のスペースに設置できるサイズ。スマホやPCで自動給餌や水質・水温などの確認が常時可能で、緊急時にはアラート通知を受け取れる遠隔監視・管理アプリ「STARBOARD by ARK」も搭載しモジュラー化された小型陸上養殖装置でした。

駐車場1台分のスペースに設置できるARK-V1

2024年8月には業務用冷蔵庫・冷凍庫に採用されているノンフロン断熱パネル「GENESTA(ジェネスタ)」を使用し、日軽形材(にっけいかたざい)株式会社と共同開発した高断熱・高機密構造のアルミフレーム断熱水槽プラットフォーム「ARK ZERO」を新たに投入しました。

耐久性とコストパフォーマンスに優れたARK ZERO

吉田さん
「これまで、世の中にアルミを使った水槽は存在しなかったんです。ARK-V1の素材も鉄でした。鉄は塩を含む海水との相性はやはり良くありません。日軽形材さんの協力を得て、軽く、外気温の影響を受けにくく、耐久性もコストパフォーマンスも高い水槽を作ることができました。
モニタリングや自動化は、起業メンバー3人ともIT企業の出身なので得意としているところです。オプション機能ではありますが、利用率は100%です」

酸素発生器(PSA)、ミキシングタンク、マイクロバブル発生装置などで高濃度の酸素を供給。バクテリアを利用した生物ろ過、水の力のみで動くドラムフィルターなど養殖の要となる水質管理にも工夫を重ねて小型化・省力化を図り、初期費用、ランニングコストともに大幅な経費削減を実現しています。

自然の営みをかけ合わせ、琉球大学との研究で生まれた混合養殖

コストとスペースの削減はもちろん、小型水槽の複数運用による多品種少量生産が可能な点、ITによる遠隔操作・自動化の実現は大きな反響を呼び、2026年1月時点で、ARKの陸上養殖装置の販売実績は全国22カ所74基にのぼります。静岡県のガス会社は本格的に養殖事業に参入を開始し、JR東日本ローカルスタートアップファンドも2026年秋頃より参入予定、岡山県では車エビと海ぶどうを同時に育て、道の駅での販売やふるさと納税返礼品としての活用も始まっているそうです。

岡山県での混合養殖には、ARKが2023年9月に発売した「REF(レフ)-V1」が使用されています。陸上養殖では海水や人工海水をろ過して繰り返し循環させることが必要です。魚の餌や排泄物に多く含まれる硝酸塩、リン酸塩は取り除くのが難しい物質ですが、アーサや海ぶどうなどの藻類にとっては生育に欠かせない養分となります。これを利用し、ARK-V1やARK-ZEROと連結することで藻類の養殖とより効果の高い水質改善の機能を持たせたのがREF-V1です。

REF-V1は、琉球大学との共同研究・実証実験によって生まれました。

吉田さん
「あるテレビ番組に私たちが取り上げられたことをきっかけに、琉球大学の共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT、国立研究開発法人科学技術振興機構実施)副リーダーの羽賀史浩先生からお声かけいただき、共同研究契約を結びました。約1年半、アーラミーバイとアーサの混合養殖を続けて技術を確立することができました」

実証実験期間中、使用する人工海水を一度も入れ替えなかったという驚きの結果からもわかる通り、水質改善の効果は狙い通りのものでした。アーサも1カ月に1度収穫しなければ生育槽がいっぱいになってしまうほど旺盛に育ち、まだ製品化には至っていないものの、加工品などへの利用を検討中だということです。

現在、連携はさらに拡大し、琉球大学をリーダーに、東京海洋大学、水産大学校、沖縄工業高等専門学校(沖縄高専)、北海道大学、株式会社メイキットが参画し、沖縄モデルを実現する陸上養殖システム技術の開発も進められています。

吉田さん
「沖縄は養殖に関し最先端の研究が行われ、非常に高い技術があると感じます。琉球大学はもちろん、養殖用の種苗(しゅびょう/稚魚や稚貝)を育てる沖縄県栽培漁業センター、漁協関係者の皆さん、たくさんの方々から様々なことを学ばせていただいています」

沖縄でさらに広がる陸上養殖の可能性

中城村や佐敷中城漁業協同組合、中城村養殖技術研究センター(NAICe)とも連携し、中城村浜漁港内の沖縄陸上養殖研究所内に12槽の陸上養殖システムを設置してアーラミーバイの養殖に着手しているARK。沖縄銀行発の地域総合商社・株式会社みらいおきなわとも業務提携契約を結び、仲卸業者、加工業者などとの商談を個別に進めています。沖縄県内で陸上養殖が産業として発展し、レストランやホテルなどでの提供が始まる未来も近づいています。

アーラミーバイの養殖が進むARK沖縄陸上養殖研究所

吉田さん
「沖縄は、アーサや海ぶどうなどの陸上養殖が以前から盛ん(※1)。人の手で海産物を育て、食べる文化が根付いています。陸上養殖に対する理解を得やすい環境であると同時に、沖縄周辺の魚たちは、成長速度が速く丈夫な魚種が多く、養殖に向いているんです。アーラミーバイは高級魚であるクエに引けをとらないおいしさで、生育期間は約1/3、病気にも強い性質を持っています」

さらに見据えているのは海外展開。
ARKは「グローバル展開なしにはベンチャーとして出資いただく意味がない」という創業者3人の共通の思いと、「鮮魚の流通経路を作るには、まず出口を」という大胆な経営判断から、創業当初よりロンドンに拠点を置き、鮨店も経営しています。今後の進出先として中東、ヨーロッパ、東南アジアもとらえるARKにとって、アジアへの玄関口となる沖縄の持つ地理的優位性も大きな魅力となっているそうです。

沖縄での事業展開を通し、実現していきたい未来を、吉田さんはこう語ります。

吉田さん
沖縄の魚の価格には、本来持っている価値が十分に反映されていないし、もっと価値を高められると感じています。どこに出していくか、どうブランディングするかによって、価値向上のお手伝いができたらと思っています。それによって、漁師さんが漁に出られなくても安定した生活を送れるような状況も作っていきたいです。
また、海水を主に使用してきた種苗生産は、海水温の上昇で全国的に非常に厳しい状況にあります。十分な種苗が確保できるよう、水産庁や全国の水産試験場、栽培漁業センターなどとも連携しながら、陸上養殖を活用した種苗生産体制の再構築を行い、安定供給に貢献できればと考えています」

ARKは、バター焼やマース煮といった商品開発にも乗り出し、テスト販売を開始しています。2026とよむ中城産業まつり(2026年1月31日、2月1日開催)では約200食を販売し好評を博しました。農水一体型サステイナブル陸上養殖共創コンソーシアムが主催する養殖レストランプロジェクト「CRAFT FISH RESTAURANT」vol.02(2026年2月1日、2日開催)でも、約50名の参加者にふるまわれています。
琉球大学をはじめとする大学、研究機関、民間企業や自治体との共同研究や連携による、さらなる陸上養殖の小型化や技術向上の取り組みも盛ん。新たな研究成果や事業発展のニュースが聞かれる日も近いようです。

世界を滅ぼす大洪水からすべての生き物のつがいを救ったという巨大な船、「ノアの方舟(はこぶね)(Noa’s Ark)」に思いを馳せて名付けられたARK。沖縄、日本の抱える漁業の課題をクリアし、経済発展をもたらすとともに、世界の海の生き物を守る手段になりうる現代の方舟は、沖縄でその可能性をさらに大きく広げようとしています。

※1 日本全国の陸上養殖業者740件のうち、都道府県別でみると1位の沖縄県が186件を占め、2位の大分県は54件。他地域に抜きん出て養殖が盛んなことを示している(『陸上養殖業の届出件数について(令和7年1月1日現在)』水産庁栽培養殖課)

【名称】株式会社ARK
【事業内容】陸上養殖技術・機器・資材・サービスの開発、製造、販売。水産物の生産・加工及び販売
【創業】2020年
【代表者】代表取締役CEO 栗原洋介(くりはらようすけ)
【所在地】本社 平塚陸上養殖研究所 神奈川県平塚市千石河岸57−7
湘南製作所 神奈川県平塚市東八幡4-15-13-1
関西営業所 大阪府大阪市西淀川区竹島2-6-18 フクシマガリレイMILAB内
沖縄営業所 沖縄県読谷村宇座1861

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