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1カ月に30~40もの事業者が関わることもある建設現場。取りまとめられた請求書の束を電卓を片手に1枚1枚確認し、迫る振込期日に間に合わせる…。月に約700件の請求書を処理するためのそんな作業に追われていた大鏡(だいきょう)建設株式会社(以下、大鏡建設)。非効率的な業務はもちろん、二人がかりで振込先や金額を読み合わせて確認しても起こってしまうミスに悩みながらも、「期日を守ること、正確な支払をすることは信頼関係の基本」と、真摯に向き合ってきました。
2020年、請求書業務を紙からデジタルへ移行することが決定。顧客はもちろん、取引先企業、自社スタッフとも信頼関係を大切に育み、より良い明日を目指そうと取り組みました。大鏡建設の業務の大きな転換点から、IT・DXの果たす役割が見えてきます。
「取引先の不利益につながる支払業務のミスや遅延をなくしたい」
2025年に創業50周年を迎えた大鏡建設は、賃貸向け共同住宅の建築を中心に成長してきた企業。建設業を事業の柱として、顧客の暮らし・幸せを考え、土地活用の提案・設計・建築・不動産・相続支援などの総合サービスを展開しています。取引業者は300社余、請求書の受け取りは毎月約700件、添付資料を含めると月3,500枚ほどの紙を処理する必要がありました。
請求書は月末締めで取引先には翌月3日までに準備してもらい、25日に支払うというスケジュール。受け取った請求書の処理を終えるまでの工程がとにかく多く、すべて手作業なので、紛失や入力ミスといったヒューマンエラーも起きてしまいます。膨大な量の紙の保管が事務所内のスペースを圧迫し、過去の書類を探し出すにも時間がかかっていました。
様々な課題の中で、常務取締役の末吉茂春(すえよししげはる)さんが最も懸念していたのは正確性でした。

末吉さん
「支払期日後、取引先企業から『請求書を送ったんですが…』と連絡が入ることもありました。弊社に届いていたのかどうかを確かめる方法もなく、請求書は行方不明。再発行をお願いするしかありません。総務部、工事部の作業負荷はもちろんですが、支払が遅れて取引先に迷惑をかけてしまうことがいちばんの問題でした。正しい金額を期日までにきちんとお支払いすることは信頼関係の基盤です」
何よりも信頼性を重視、基幹システムとの連携可能なクラウドツールの導入へ
紙と人の手に頼った業務を変え、支払ミスや遅れによって取引先企業に不利益をもたらすことがないよう、末吉さんは請求業務のシステム化を決意。基幹システムをはじめ、会計ソフトやネットバンキングなどすでに使用していたツールと連携して使用できるものをリサーチしていました。
インターネット検索でたどり着いたのが、電子請求書発行・受取システム「BtoBプラットフォーム請求書」。決め手になったのは、信頼性の高さと取引先企業のメリットが明確だったことでした。
末吉さん
「4、5種類の類似のツールと比較検討しました。費用面では大きな差はなかったのですが、企業活動や取引先との関係性に直結するお金を扱うシステムです。信頼性は第一に重視していたので、導入企業数が国内トップクラスという実績は大きなポイントになりました。
また、取引先に費用負担が発生することもありません。請求書発行は無料で、必ずメリットを感じていただけると思っていました」
初期費用も高額ではなかったことから、末吉さんは「万が一うまくいかなければ中止すればいい。でも、うまくいけば投資した金額を大きく上回る効果が得られるだろう。まずはやってみよう」と判断を下します。そして、発行や内容確認、とりまとめなど、請求書作成に関わる工事部から取り組みを進め、その後支払処理を行う総務部へという流れで導入を進める方針を立てました。
会社としても大きな転換点となるプロジェクトの推進役として、末吉さんは二人の人材を抜擢します。それが、総務部の兼村麻里絵(かねむらまりえ)さん、工事部の宮城洋子(みやぎようこ)さんでした。
デジタル化に必須の「前向きで中途半端なことはしない推進力のある人材」
大鏡建設に届いた請求書は、総務部で開封・確認後、工事部で現場ごとに仕分け、各現場まで直接届けたうえで、内容や金額を確認してもらう必要がありました。その後工事部内で確認・承認を行い、総務部に戻り、ようやく支払処理へ移行するという複雑なフローだったのです。
請求書処理業務の転換を知らされた時、兼村さんと宮城さんの心にはそれぞれの思いが浮かんでいました。


兼村さん
「これまですべてが紙だったので、本当にデジタル化できるのかという不安の一方で、業務が変わることへの期待を感じていました。
振込前には、手入力した一覧表を二人一組で1日がかりで突き合わせて確認していましたが、それでもミスをゼロにすることはできず、心理的負担も大きかったんです。取引先の担当者さまに直接自社の情報を入力いただくことで入力や転記ミスがなくなり、正確性が高まると感じました」

宮城さん
「届いた請求書を現場ごとに仕分けし、各現場の代理人に直接持って行って内容や金額を確認してもらい、また総務部に戻す作業に追われていました。紙を抱えて行ったり来たりする状況を変えるには、とにかくやるしかない。そう思いました」

末吉さんは、「まずは信頼関係の深い1社とのやりとりから始めて少しずつ広げ、実績を作って拡大していく」「約1年で取引先全社に利用を拡大」といった方針を伝えます。困った時にはすぐに相談できる体制を保ちつつ、細かな進捗管理は行わず、多くの部分を任せました。
末吉さん
「新しいことを始め、定着させていくには、前向きで推進力のある人材が必要です。普段の業務が正確で、中途半端なことはしない二人には信頼を置いていました。業務を良い方向へ変えていきたいという姿勢も感じていましたし、新しいことへの向き合い方も積極的。適任だと思いました」
末吉さんの厚い信頼に、兼村さんと宮城さんは社内外での細やかな対応と大きな成果で応えます。
工事部発、丁寧な説明やフォローをいとわない姿勢が取引先と社内への導入・浸透をスムーズに
宮城さんは、どういった使い方をしたいのかをシステムを取り扱うIT企業に伝えるとともに、建設業の請求書の必須事項である工事進捗(出来高)についての項目追加なども実施してもらいました。

利用拡大は、末吉さんの指示通り1社とのやりとりから始め、徐々に広げていきました。その際には1社ずつ電話をかけ、実際のシステム画面を開いてもらいながら操作方法を説明し、時には直接訪問することもあったそうです。
宮城さん
「メリットを提供できる見通しがあるとはいえ、新しいシステム導入への対応は取引先に負担をかけることでもあります。信頼関係をより深めていくためにも、フォローは全力で行いました。操作方法についてはおおよそ30分ほど、同じ画面を開きながら説明しました。電話では伝わりにくい場合や、パソコンの設定など細かなサポートが必要な時には直接伺うこともありました」
社内での導入・浸透の過程では、大きな戸惑いや抵抗感、ネックとなるような出来事は起きませんでした。この点について、総務部ではなく、工事部からの取り組みとして進めた点が大きく影響した、と兼村さんは考えています。
兼村さん
「総務・経理からの発信で進める企業さんが多いそうなのですが、受ける恩恵がいちばん大きいので、一部署だけの改革と見られてしまうのかなと感じました。現場に近く、請求書発行の起点となる工事部から進めてもらうことで、一部署ではなく全社の業務を良くする取り組みだという点がしっかり伝わったのではないでしょうか」
また、総務部では兼村さんが、工事部では宮城さんが困った時にはいつでも相談できる体制を作りました。スタッフそれぞれの状況に細やかに目を配り、その時に必要なサポートを先んじて行ったことも、スムーズな導入・浸透の大きな要因と考えられます。
年間640万円の経費削減効果。「システムがなければ今の件数には対応できない」
デジタル化で得られた成果は目をみはるもので、経理部門で年間360時間の業務時間短縮、請求書業務の人件費・経費は640 万円の削減となりました。
手入力が不要になったことで転記・入力ミスといったヒューマンエラーはゼロになり、処理にかかる期間は半月から約1週間に半減。すべての集計作業が終わるまでわからなかった振込総額も事前確認が可能になり、資金準備なども余裕をもってできるようになったそうです。エラーメッセージの表示で記入漏れも防げるので、請求書に振込先や連絡先がないといったこともなくなり、確認作業も大幅に短縮されています。
導入当時から現場数も取引先も増加していますが、人員増を行うことなく対応できているとのことです。
末吉さん
「もし紙での処理のままだったとしたら人材も不足し、かなり大変な状況になっていただろうと思います。課題だった集計や入力などのヒューマンエラー、確認作業にかかる時間や負担も大きく改善されています」
宮城さん
「以前は現場と事務所との行き来や電話対応などを最優先で行わなければならず、他の業務が中断されるなど自分自身ではコントロールが難しい状況でした。今は自分のペースで業務に向かうことができます」
兼村さん
「今の件数はシステムがなければ絶対に対応できていないと思います。インボイスへの対応も、デジタル化していたからこそ大きな混乱なく進めることができたと感じます」
工事部からの請求書は電子化率100%を実現。成功の鍵は「目指すものの明確化と人選」
デジタル化が難しく紙で受け取らざるを得ない取引先の請求書も20%ほど残りましたが、オプション機能であるAI-OCR、『BP Storage for 請求書 受取』を導入して工事部からの請求書は電子化率100%を実現。1週間ほどかかっていた処理時間を大幅に短縮するとともに、手作業によるミスをゼロにしています。
大きな業務負担の軽減や効率化が実現したとこで、社内のデジタルツールへの見方も変わりました。「使い方を覚えるのが大変」といった後ろ向きな声も以前はあったそうですが、「この部分を改善したい」「ツールで効率化できないか」といった積極的な提案が聞かれるようになったのだそうです。
末吉さんは、ツール導入について、目的を明確にすることと人選が大切だと考えています。
末吉さん
「ツールではなく業務ありきで、本当に必要としているもの、実現したいことを明確にすること。そして、推進役の人選も非常に大事です。前向きで推進力のある、信頼できる人材を置くことができれば、導入も浸透もしっかり進んでいくと思います」
「まだまだデジタル化が必要。課題の解決に思ってもみなかったような答えが見つかることもある」と、県外の展示会にも足を運ぶ末吉さん。兼村さん、宮城さんも展示会やセミナーに積極的に参加し、他企業の実際の取り組みや成果からも多くの気づきを得ています。宮城さんは「現地で参加するとその場の空気感も感じられ、人とのつながりなど得られる情報の質が変わる」ことを実感しているそうです。
大鏡建設の男性育児休暇取得率は100%、介護休暇を取得するスタッフも多く、互いを思いやる社風が根づいた社内の空気は和やかです。
建設現場支援ツールの導入を進め、効率化・脱属人化のための日常業務でのAI活用なども検討中とのこと。顧客や取引先はもちろん、働くスタッフとも信頼関係を深めながら、その足取りは着実に進んでいます。















