ビジネスにおいて、毎日のように耳にするようになったDX、ITという言葉。「うちもDXに取り組まなければ」「ITツールを活用しなければ」…そんな焦りを感じている方もおられるのではないでしょうか。
エッカ石油株式会社(以下、エッカ石油)代表取締役社長の上地啓太(うえちけいた)さんは、意外にも「DXやITという言葉は気にしたことがない」と笑います。しかし、エッカ石油は、コロナ禍直前の2020年には社内業務のクラウド化を完了し、コロナ禍で必須となったテレワークをいち早く、スムーズに実施してきた企業。現在も多彩なツールを活用し、業務のあり方を根本から変えている=DXを実現しているのです。
「日々見えてくる課題を解決するために何が必要かを考え、最適なものを選んできただけ」と語る上地さんと、上地さんの求める課題解決の手段を探し出し、社内実装に奔走してきた業務部デジタルデザインチームの志喜屋譲(しきやゆずる)さんにお話をうかがいました。

現場の課題に向き合えば、自ずとデジタル・IT活用にたどり着く

上地さん
「社内でDXという言葉を使ったことはないかもしれません。ITツールの導入やDXは、ある課題に気づいた時に、それをどう克服していくかを考え、選ぶ道具です。会社として目指すものは何か、どんな課題があるのかを掘り下げ、考えることが先だと思っています」

代表取締役社長の上地さん。「課題を掘り下げ、解決方法を考えることが大切」と話す

エッカ石油は2000年代初めにはグループウェア(※1)の使用を開始していましたが、当時はクラウド・サブスクリプション型のサービスは存在せず、オンプレミス(サーバーやソフトウェアなどを自社内に設置して運用する方法)型でした。社外からパソコンでアクセスは可能でしたが、メール着信があっても通知されません。アクセスしても空振りに終わることが多く、スマートフォンにも非対応でした。こうして「情報の空白時間」が日常的に生まれていたのです。

役職者が社外からデータを確認できず経営判断ができないこともしばしば起こり、ある時は、担当者出張のため顧客からの緊急メールへの対応が3日後になり、激怒させてしまったこともあったそうです。

紙やExcelに頼る申請や部署ごとに資料が分散している状況は非効率で、スピーディーな経営判断の阻害要因にもなっていました。社内情報共有の主な手段はメールで、即時性が低く、組織内の連携を鈍らせてしまう面もありました。さらに、保守・運用コストがかさむ点も大きな課題だったといいます。

2019年、山積みの課題を解消するため、上地さんはオンプレミスからクラウドへの転換という大きな変革を決断します。

上地さん
「お客さまにとっての利便性、問合せやリクエストなどへスピーディーに対応するためには、電話、SNS、ホームページなど、複数の窓口から入ってくるデータを一元化してすぐに参照・分析できるよう管理しなければなりません。それを実現するにはITの力が必要でした」

上地さんは、ITツールの重要性だけでなく、現場の声やスピード感の大切さも熟知していました。その上地さんの右腕となって改革を推進したのが、志喜屋さんです。志喜屋さんは業務課題の解決を担うデジタルデザインチームの一員として、現場を動かしていきました。

※1 グループウェア:組織内情報共有のためのソフトウェア。ネットワークに接続されたコンピュータ同士での情報共有、スケジュール管理等を円滑にする多くの機能を備える。小規模から大規模まであらゆる企業に対して、業務の質とスピードを向上させるためのサービス。

現場には不安の声も。成果の可視化と徹底サポート、スタッフへの信頼を土台に進めた導入

会社のインフラであるグループウェアの転換に際し、エッカ石油がアドバイスを求めたのは、2015年頃からITコンサルとして関わってきたA社でした。上地さんが「専門的な知識を持ち、新しい情報にも精通し、実行力がある」と信頼を置くA社は、上地さんの意図をしっかりと理解して業務課題に沿った選定・提案を進めます。

複数の候補を比較検討し、企業規模や社員のリテラシー、費用、機能などの面から総合的に判断し、インド発のクラウド型ビジネスアプリケーションサービス「Zoho(ゾーホー)」の5つのツールの導入を決定します。

エッカ石油が導入したZohoのツール一覧
①Zoho Mail/Calendar:メールとスケジュール管理をクラウド化
②Zoho WorkDrive:文書や資料をクラウドに一元化
③Zoho Cliq:リアルタイムのチャット基盤を整備
④Zoho Forms:申請業務をWebフォーム化
⑤Zoho SalesIQ:社内のIT関連問い合わせ対応BOT

 

社長の右腕となって改革を推進したデジタルデザインチームの志喜屋さん

ITに関する知識や新しいものに対する考え方は、人によって大きく異なります。ツール導入にあたり、現場からは「課題解決につながる」「業務を効率化できる」といった前向きな意見とともに、使い慣れた紙からデジタルへの変化や業務負荷に対する不安の声も上がったそうです。

志喜屋さん
「弊社は肉体派の社員も多い会社で、ITは決して得意分野ではありませんが、まじめな人ばかりです。でも、使って業務が楽になる状況や、誰かが喜んでくれる状況が見えないと、活用度合いが鈍くなります。そこをきちんと可視化することができれば必ず浸透していくと考えました。
『何のためのツール導入なのか』『目指す目的は何か』をしっかりとリーダーに共有し、部下一人ひとりの活用の様子を見守り、取り組みに対しては必ずリアクションを行うこと、それらを、A社の助けも借りながら徹底してサポートすることを心がけて進めました」

期待も不安も率直に話し合える雰囲気と、スタッフ一人ひとりに寄せる厚い信頼。これらを土台にしたサポートのもと、導入は大きな混乱なく進んでいきました。

「すぐにつながる」「確認できる」。クラウド化で通常業務・緊急対応の質と速度が激変

オンプレミスからクラウドへの転換が図られたことで、日常的に発生していた「情報の空白時間」は解消され、いつでも、どこにいても社内データにアクセスできる環境が整いました。
チャットツールによるリアルタイムの情報共有も大きな成果を挙げています。
社長と部門長のグループチャットで、以前は1週間かかることもあった確認が、タイミングによっては数秒で終わることもあり、経営判断スピードは格段に上がっています。顧客からの緊急連絡への即時対応以外の部分でも大きな変化がありました。

情報共有・判断のスピードを格段に上げた申請稟議フォームと緊急連絡フォーム

志喜屋さん
「お客さまから面談中に受けた質問や交渉事項についても、すぐに社内のデータを参照したり、チャットで上司や役職者の回答・判断を仰げます。交渉事項の回答はお待たせしてしまう場合が多かったのですが、その場で『このラインまでならOK』といった返答ができることも増えました。お客さまからの信頼を高め、満足度向上につながっているのではないかと感じています」

例えば、緊急対応が必要なガス漏れなどの事故発生時の対応、顧客対応の課題については、簡素化したフォーム入力で報告するフローを構築しました。
事故においては、現場にいるスタッフは一次対応に集中。報告を受けた上司などが状況を判断し、バックアップと最適な対応指示を行い、被害を最小限に抑える体制が整いました。

クレーム・ミスの対応でも、事故同様に現場スタッフは顧客への対応に集中し、上司などが状況判断や対応指示を行います。こちらは、責任感のあるスタッフほど自責の念から報告が遅れてしまうことが多かったそうです。しかし、初動は早ければ早いほどより的確な対応が可能。淡々と事実だけを報告できるフォームを利用することで、より早い報告を促し、再発防止策の共有を実現、同様のクレームやミスの防止につながっています。

業務プロセスにおいても、様々ある申請はスマートフォンから数タップで完結し、ITツールの使用方法などの質問にはBOTが即対応します。事務作業やツールの操作方法の確認などに手間や時間を取られることなく、本来業務に集中できるようになりました。

複数事業横断の顧客データで、一人ひとりの姿をより鮮明に

クラウド化で整ったスピーディーな情報共有の土台。その上に、エッカ石油はより深い顧客理解の仕組みを築きます。

プロパンガスや石油製品類の販売のみならず、ガソリンスタンド・ホームセンター・飲食店の運営など、様々な分野の事業を展開しているエッカ石油。主力事業であるプロパンガスの契約は世帯単位のため、個人の属性は把握できません。また、ガソリンスタンド・ホームセンター・飲食店の来店客のデータも取得できていませんでした。

志喜屋さん
「世帯単位の契約管理情報は、ガスボンベを配達するために必要な名前、住所、電話番号のみ。事業を横断した顧客情報の活用はまったくできず、ターゲット像すら曖昧でした。店頭キャンペーンなどで属性データを集めても、弊社が運営するガソリンスタンドや飲食店などを利用してくださっているかどうかもわかりません。
『コンロ購入から10年経っているようだから案内をかけよう』といったアナログな営業が主で、地域一帯にチラシを配る、といった施策を打ってもどの程度効果があったのかも計れない状態。お客さまに寄り添い、喜ばれるサービスを提案したいと考えても、それを判断する材料がなかったんです」

こうした課題を解決しようと導入したのは、顧客情報を管理・分析する「Zoho CRM」です。さらに、スマートフォンアプリ(会員アプリ)を開発・リリースし、プロフィール情報から属性データを得るとともに、来店・利用によるポイント付与やキャンペーンを通して行動を可視化します。

アプリで得られたデータが「Zoho CRM」に蓄積されることで、これまでは世帯単位でしか把握できなかった顧客の姿が鮮明になり、事業を横断しての顧客の行動分析も可能になりました。

会員アプリから顧客情報を管理・分析、より付加価値の高いサービスを実現

志喜屋さん
データやデータをもとにした分析で、ぼんやりとしていたお客さまの姿がくっきりと見えてきました。ガス契約者でガソリンスタンドも利用している方には洗車券を贈るといった、ロイヤルカスタマー向けの施策も打つことができます。お客さまに喜ばれるサービスを提供できるようになり、さらに、これまで接点を作るのが難しかった新規のお客さまへのアプローチも可能になっています」

大切なのは「何を導入するか」ではなく、実現したい未来を具体的に描くこと

エッカ石油は、コロナ禍前にリモート環境の整備を終え、沖縄で感染者が出た約1カ月後にはリモートワークを開始するなど、一歩先を行く取り組みも行っています。それだけでなく、一般的にはリモートワーク普及後に顕在化したコミュニケーション不足という課題も予測していたのです。
特に新入社員や部署異動があったばかりのスタッフに孤独感を感じさせないよう、ツール選定は慎重に行われました。選ばれたのは、仮想のオフィス空間にスタッフが出社し、ステータスも常時表示され、近づいて話しかけるといった操作が可能なものでした。

上地さん
自分だったらどう思うか、何が大変だと感じるか。想像してみることは、日々の生活や業務の中でよくやっていることです。入ったばかりの職場で最初からリモートワークするとしたら、私ならコミュニケーションのハードルが高く、わからないことも聞けずに不安な気持ちになると感じました。
自分で動いて、想像してみると、業務の課題や論点が見えてきます。現場に行って初めて見えるものも多いですね」

「スタッフが緊張してしまうので、現場には人がいない時間帯に行くようになった」と冗談交じりに話す上地さん。現場で気づいたことやアイデアはその場でチャットに書き込むことも多いそうです。

上地さんからどんどん飛んでくる質問や「こんなことはできないか」といった斬新なアイデア。それらに応えられるツールや仕組みを探し、考え、導入・浸透させてきたのは、志喜屋さんをはじめとするデジタルデザインチームと、A社の担当者でした。

上地さんの行動力と想像力が生む先見の明と、上地さんの意図を実現できるソリューションを探し、実際に現場に落とし込むまでの過程を担う志喜屋さん、そしてそれを支えるパートナーとなる専門家。それらが揃って初めて、こうした取り組みが可能になっているのです。

上地さんは、IT導入やDXについて「導入するのが目的ではなく、理想の姿へ向かうために課題を解決する一つの手段」「導入すれば魔法のようにすぐに効果が表れるものではなく、選択、準備、浸透に様々な工夫と努力が必要」としたうえで、向き合い方を次のように語ります。

上地さん
「導入そのものを目的にしてしまうと、本質から外れ、期待した成果が得られず定着しないケースも少なくありません。大切なのは何を導入するかではなく、どんな未来を実現したいのかを具体的に描くこと。そこにITが必要と感じたなら、選択肢を一つ増やすような感覚で、少しずつ取り入れていくのがいいのではないでしょうか」

上地さんの姿勢は、まさに経営変革、DXの本質を表しています。
「自分だったらどう思うか」と現場から課題をすくい上げ、「どんな未来を実現したいのか」を描く。まずはそこから、あなたの会社をより良くしていく一歩を踏み出してみませんか。

【名称】エッカ石油株式会社
【事業内容】プロパンガス類・石油製品類の卸売・小売などのエネルギー関連事業、ガソリンスタンド・ホームセンター・飲食店などのフランチャイズ事業
【創業】1965年
【代表者】代表取締役社長 上地啓太
【所在地】本社 沖縄県浦添市牧港5-3-2
【従業員数】363人

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