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「お客様の変化をテクノロジーで支えるコンサルティングファーム」株式会社ブルー・オーシャン沖縄は、現在、沖縄県内におけるDX人材の育成に力を注いでいる。彼らの指針は、「ITツールを使いこなすスペシャリスト」ではなく、「物事の本質を見極められる人材」を育成することだと言う。
数々の地方創生事業を手掛ける同社執行役員・崎山喜一郎(さきやま・きいちろう)氏の経験から生まれた「沖縄の資産価値を作り、沖縄の経済基盤をしっかり構築する」という大きな目標が土台になった育成カリキュラムは、よりリアルで、受講者の心に響くものになっている。受講者からは「偏見を持たず、結果を決めつけずに確かな情報や意見を集めることが大事」「周囲の課題にアンテナを張ること。身の回りの出来事に興味を持つことが重要」など、ITやDXに関するコメントではない声が聞かれ、より物事の本質に迫った講義になっていることが分かる。
2022年3月には約30人のDX人材が誕生する予定だ。今回は、「地域DX人材育成講座」の中心的存在である崎山氏と、広報/地方創生グループの安田陽(やすだ・よう)氏に話を聞いた。

上流工程を手掛けられる人材の育成が急務

独自のノウハウを注ぎ込んだカリキュラムでDX人材を育成

執行役員・崎山喜一郎氏(以下、敬称略):以前、沖縄のある市町村で中央省庁の受託事業を行ったことがあります。東京の企業が主体となっており、私たちが担えたのは総事業費の0.5%にも満たない業務でした。本来沖縄に落ちるはずのお金が本州に流れ、少額しか残らないのは、ひとえに事業の基盤がないから。沖縄に事業の基盤を作りたい。沖縄でも事業を設計できる人材を育てたい…この時からそう思うようになりました。

崎山:今年度、私たちは「地域DX人材育成講座」に取り組んでいますが、育成する人材像にもこの思いが反映されています。仕事の発注側を上流とした場合、下流側で仕事を受けるだけでは成長もあまり見込めず、沖縄の発展にもなかなかつながらない…。いかに上流に近い仕事ができるかで、当然得られる収入も変わります。私たちが目指しているのは、仕事の上流側で事業をコントロールできる人材を、地域で育てることです。

広報/地方創生グループ 安田陽氏(以下、敬称略):一般的に、DX推進にはさまざまなメンバーによるチームプレーが必要ですが、その担い手となる人材不足が大きな課題となります。現場では、新たな価値を創造するため豊富な経験が求められる業務もある一方、IT初心者が比較的短期間でスキルを習得し、DXの一部を担うことも可能です。私たちは後者の可能性と意義に着目し、ITベンダーに一任する従来の進め方とは正反対の、“地域のために活躍する地域のDX人材の育成”を推進しています。

崎山:DXという言葉が一般化したのはごく最近のこと。DXを「業務の本質的な課題解決による新しい価値の創造」と理解することができるとすれば、私たちは2015年から沖縄県内の自治体でさまざまなDX施策を行ってきました。こうした実務で積み上げたノウハウを基に、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの研究員・新谷隆(しんたに・たかし)氏と協力し、現場のニーズに沿ったDX人材育成カリキュラムを構築・提供しています。

崎山喜一郎氏

安田: カリキュラムでは“地域性”にもこだわりました。地域DXの推進には、地域の課題と向き合うことが重要です。そのためには、全国共通システムの導入ありきではなく、地域の人材が担い手となって、地域で求められるソリューションを検討・実現していくべきだと考えています。弊社メンバーは全員沖縄在住で、沖縄の事情に精通したDX専門家です。その見地から、クライアントである沖縄県内企業の皆さまにヒアリングを行い、新しい価値の創出を促す支援を提供しています。

「地域DX人材育成講座」の講義風景

崎山:年間3期の計画で、現在2期約20人のDX人材育成が修了しました。認定者たちはとりわけITに詳しかったわけではなく、講義の内容も、「物事の本質は何か」といったマーケティングに近い部分の話です。ITは手段でしかないんですよね。AIやRPAも全て手段。それが地域の課題に当てはまるかは全く別の問題で、IT導入・使用が目的になってしまうと、どんどん本質からずれてしまう。だから、課題や物事の本質をしっかりと見極められる人をDX人材と定義づけています。

崎山:「ゼロベース思考」もカリキュラムに組み入れています。

「ゼロベース思考」講義時のスライド

崎山:例えば、ある会社の社長が「最近離職率が高い」と悩んでいる場合、どう考えるか。多くの場合、「離職率が高い原因を探る」という答えが出てきます。「なぜ辞めたのか?」と、辞めた人にフォーカスするわけです。ゼロベース思考では、発言した人の“フィルター”を一旦取り除いてから考えます。ここでは、「離職率が高くて悩む=辞める人が多く困っている」ということがフィルターに当たるもの。これを取り除いて、どうして離職者が多いと困るのかを考えます。そこから「実は辞める人が多くても困らないのでは?」「システムに任せた方が早く正確になる可能性がある」「もしかすると2、3人余剰だったかもしれない」という真逆の解決策が浮かんでくる可能性もあります。そうしたところからソリューションを探すんです。物事をフラットな視点からじっくりと掘り下げ、本質を見極める。そうしたプロセスを経験し、身につけてもらうのが狙いです。

安田:座学だけでなく、もう少し具体的なこと、例えば動画編集の研修なども行っています。具体的には、観光地を紹介する動画や企業インタビュー動画の制作プロセスを通じて、映像のカットや結合、手ぶれ補正、映像とBGMのシンクロ、動きのあるタイトルや説明テロップ(字幕)、ロゴの挿入、映像や音のフェードイン・アウトなどを身に付けてもらう内容になっています。

研修で制作する観光地紹介動画の編集画面

※AI=Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)の略称。知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術(総務省 情報通信白書より) 
RPA=Robotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の頭文字を取った略語。人がコンピュータ上で行う業務プロセスや作業を自動化する技術

テレワーカー育成により観光閑散期の収入源を確保

安田:一方、2015年から、観光業の閑散期に在宅勤務で副収入を得られる仕組みを作るため、沖縄県から受託した「離島テレワーク人材育成補助事業」を竹富島などの離島で行っています。

「離島テレワーク人材育成補助事業」の記者会見の様子

崎山:多くの地域で進められているテレワーカー育成は、東京などから地方に移住して仕事をするものですが、私たちは地元の個人事業主が首都圏をはじめ県外企業の仕事を受託するスタイルにこだわりました。2018年には、地域振興を担当している沖縄県企画部の地域・離島課に認められ、全離島に展開することに。2020年には、うるま市、南風原町(はえばるちょう)、豊見城市(とみぐすくし)、八重瀬町(やえせちょう)、名護市といった本島の市町村にも導入され、登録テレワーカーは約1,000人を数えるまでになり、データ入力やWebライティング等で活躍しています。

「離島テレワーク人材育成補助事業」の伊江島(伊江村)での村民説明会

崎山:私たちは、地域の課題解決をITベンダー主体で進めるのではなく、地域のDX人材が地域側で要件を整理し、ITベンダーに発注できるようにすることで、一部の業務を地域のテレワーク人材に流すシステムを作っています。例えばシステム構築業務とデータ制作・投入業務がある場合、一括でITベンダーに発注すると、データに関わる業務も全てベンダー任せになってしまいます。それを地域の側でコントロールできれば、データ投入業務を切り分けて地域のテレワーカーに発注することも可能です。地域にお金を循環させるためにも、より上流で仕事を作ることを目標にしています。

 

クライアントには“提案”せずにじっくりと話を聞く

崎山:「物事の本質を見極める」ことは、通常の業務でも大事にしていることの一つです。弊社は2015年から国・地方自治体のプロジェクトに参画を始めましたが、当時からの理念に、「IT会社といえども“提案力”を持たなければならない」というものがあります。

崎山:“提案力”といっても、一方的に商品やサービスを売るということではありません。例えば、クライアントにお会いする時、初回は何も持たず、ひたすら話を伺います。2回目も前回訪問時のヒアリング内容をまとめた資料をお渡しするだけで、提案はしません(笑)。ただ、この資料にはクライアントの課題が詰まっています。お渡しする資料としてまとめる過程でクライアントの強みや悩みが整理されるので、課題解決に向けて動き出すツールになるんです。地域の課題は多岐にわたり、とても複雑なもの。私たちは商品やサービスを開発し、それを売るのではなく、地域の課題を浮き彫りにし、そのソリューションとなる商品やサービスを開発すること、“ゼロからイチを作る”ことを仕事にしているんです。

 

“ゼロからイチ”で竹富町民の生活が変わった

安田: “ゼロからイチを作る”ことから生まれたものの一つが、竹富町民の大事な足である高速船などの船賃負担軽減の申請手続き簡素化です。

安田陽氏

崎山:これまでは、町民が手書きの申請書を提出、船舶会社がExcelに打ち込んだデータを添えて沖縄県と竹富町役場に軽減分の金額請求を行っていました。また、役場では割引対象者のデータベースを住基データベースと別で持っていたため整合性や即時性に問題がありました。チケットを買うたびに申請書を出さなければならない住民、申請書をパソコンで手入力する船会社、データの運用が煩雑な役場とそれぞれの立場で大きな負担があったんです。

崎山:そこで、町民が申請の際に使う「沖縄県離島住民割引運賃カード」に二次元バーコードを入れ、チケット購入時に申請書の提出ではなく、カウンターに設置されたリーダーでその二次元バーコードを読み取るだけにしました。船舶会社はタブレットで航路を選択するだけでデータは集計されます。最もハードルが高かった住民割引データベースと住基データベースとの整合性について、セキュリティーの問題で詳細は言えませんが、こちらもある方法で解決しています。地域のDX推進で最も高いハードルとされている住民IDの扱いについて、竹富町では実はそのハードルをクリアしています。他の自治体の参考例にもなるのではと考えています。

崎山:これにより、町民は申請書を書いて提出する必要がなくなり、船舶会社もExcelに打ち込む作業を省略することが可能になりました。「船賃割引のデータと住民基本台帳のデータの整合性を取る手間がなくなった」(役場)、「毎回申請書を書く手間がなくなった」(町民)、「割引に伴う入力業務が皆無になった」(船舶会社)といった喜びの声をいただき、本当にうれしかったですね。また、提供したシステムによって、人々の生活が変わる光景を目の当たりにすることも、上流側で仕事ができたからこその得がたい経験でした。

安田:カードと二次元バーコードの組み合わせは、他のサービスにも応用可能です。最近はLINEを使ったサービスもトレンドですが、LINEを使えない人へのケアも考えていきたいと思います。国はそういったデジタルデバイド対策を自治体の取り組み施策としていますが、リテラシーを無理に上げるのではなく、リテラシーの低い層に地域DX人材がデジタルの恩恵を与えられるような存在になるとより良いDX社会になるのではと考えています。

「ドローンを活用した物資輸送民生化事業」の実験

崎山:その他、物流業界の人材不足や離島への輸送費軽減を目標に、ドローンを使って小型荷物の配送をする実証実験(「ドローンを活用した物資輸送民生化事業」)、大きな災害が発生した際に要救助者の位置情報をデジタルデータ化し、救助者が二次元バーコードを読み込むと近隣の要救助者と詳細情報がスマートフォンに表示される、“地域の共助”を支援する「ニアリンク」といったシステムやサービスも開発しています。

崎山:「ニアリンク」も先に紹介した「地域DX人材育成講座」の講義に取り入れました。受講生からは「広い視野で利用者のことを考え、価値提供する大切さを学べた」「職場の問題点を手段で解決しようと考えがちだったが、まずは根本的な問題点を突き詰め、どう改善したいか考えることが必要だと気づいた」といった声も聞かれました。“DXやITはあくまでも手段、大切なのは価値そのものにフォーカスすること”をしっかり伝えられたようで、うれしいですね。今後、彼らが地域の中で活躍することによって、地域がどんどん面白いものになっていくと信じています。

 

DXを合言葉に、みんなで沖縄を良くしていきたい

安田:さまざまな取り組みをしていますが、最終的にはそれぞれの収益力を高めることが目標です。今後は一人でも多くDX人材を育成し、テレワーカーも5,000人までに増やしたい。そうすれば沖縄の持つ価値も高まり、自治体や企業側も発注先として注目するようになるのではないでしょうか。

崎山:最近はDXという言葉が世の中にあふれていますが、その解釈は多様です。キャッチーなものなので、上手に使うことが必要だと感じています。中小企業は業務が属人化して分かりづらくなりがちですよね。経営者がトップダウンで効率化するためのキャッチフレーズとして使ったり、「DXだから」と社員を説得して社内の業務フローを見直したり、そういうマインドセットに使うワードとしては非常に有効だと思います。私たちもみんなで沖縄を盛り上げる合言葉として「DX」を使い、「地域DX人材育成講座」を通して県内企業をサポートしていきたいと考えています。

【Profile】
社名:株式会社ブルー・オーシャン沖縄
代表:代表取締役 岩見 学(いわみ・まなぶ)
住所:沖縄県那覇市おもろまち4-6-17 おもろパークテラス3階
電話:098-917-4849
業務内容:システム開発、ネットワーク構築、地方創生コンサルティング、ドローンによる物流DX、防災ソリューション

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