• BEFORE & AFTER

    コロナ禍で観光客激減、民宿も食堂も休業せざるを得ず経営危機に。 独自のコンテンツ作りを考えるが資金面で負担が大きく踏み出せない
    • 補助金も活用しAdobe Creative Cloudを導入、写真撮影やオリジナルグッズの販売等新事業を確立。独学で看板や店内のサイン、メニューの刷新、HPデザイン等を行う。 クオリティーの高い写真や動画を武器に、写真撮影サービスやオリジナルグッズ制作・販売の新規事業を立ち上げ、HPも大幅にリニューアル。SNSでも多くのフォロワーを獲得、集客に効果を上げている
    神谷荘はうるま市勝連の平敷屋(へしきや)港からフェリーで30分、「キャロットアイランド」の名で親しまれる津堅島(つけんじま)にある民宿です。本島との間に定期船もなかった1980年に、おにぎりや軽食を提供する施設としてスタート。本島との定期航路の実現後、マリンスポーツや宿泊、食堂、三線による芸能活動、民謡歌手の輩出等、津堅島の観光発展に大きく寄与しながら40年以上営業を続けてきましたが、2019年末から始まったコロナ禍により、2020年4月からは休業を余儀なくされてしまいます。
    経営危機に直面した神谷荘の代表代行・神谷恭平さんが取り組んだのは、画像編集・デザインソフト導入による島ならではのリソースの活用と、新たなビジネスの軸作りでした。

    2年間続いたお客様を迎えられないコロナ禍の日々

    代表代行・神谷恭平さん

    「コロナ前の2019年の宿泊者は846人、2020年は0人です。宿泊はもちろん、食堂も2022年4月以降休業していたので、収益を得られない状態でした。2022年5月に営業を再開するまで、約2年間我慢の期間が続きました

    デザインの力を実感、画像編集・デザインソフトを導入

    コロナ禍で生まれた時間を生かし、神谷さんは「まずはできることから」と、以前は外注していた印刷物の作成にチャレンジ。新しい収益の軸を作るため、にんじん栽培にも着手したそうです。

    「InstagramやTwitter等SNSに触れる時間も増えたのですが、情報があふれている中、興味を持ってもらうためにはやはり目を引くデザインが必要だと身に染みて感じました。SNSとデザインの切っても切れない関係を実感し、ここに力を入れなければ、と感じるようになりましたね。

    また、創業時からほとんどそのままだった看板や施設内の案内表示、食堂のメニュー等こまごまとした制作物もどうにかしたいと考えていました。画用紙にマジックで無造作に手書きしたようなものばかりだったので(笑)」

    SNS発信にもデザインの重要性を痛感した神谷さんは、施設内の色々な表示等を一新し、印刷物なども自分自身で作りたいと考え、画像編集・デザインソフトを導入しようと考えました。

    「利用料の負担に関しては不安もありましたが、外注するよりは確実に費用を抑えられると思ったんです。そんな折、沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)を通して知った『小規模事業者等IT導入支援事業(令和4年度より小規模事業者等デジタル化支援事業がこうしたソフトウェアの導入にも利用できると知り、迷わず申し込みました」

    「島の魅力を伝えたい」を原動力に知識ゼロからスタート

    神谷さんが選んだのは、Adobe Creative Cloud(アドビクリエイティブクラウド※)。静止画から動画まで様々なコンテンツに対応できる点、ユーザーが多く、Web検索で操作や活用方法など様々な情報を得られる点が決め手となり、2021年夏頃に導入しました。

    「デザインの知識や経験はゼロ。参考書も買いましたが、結局あまり使いませんでした。一章ずつ体系的に知識を身につけるというより、作りたいものを形にするために必要な操作を覚える方が合っていて、他の仕事の合間に色々なものを作りながら覚えていきました。

    ある程度わかってきた、と思えたのは1カ月くらい経ってからですね。難しいことはせず、なるべく簡単なものの組み合わせでかっこよく見せる必要最低限のスキルを身につけた、というところ。まだまだ日々勉強です」

    神谷さんは1日平均1時間程度の時間を確保して地道に取り組みました。できることが多ければ多いほど、覚えなければならないことも膨大。中でも動画編集は本当に難しく、時にはあきらめたくなるようなこともあったそうです。

    制作物のクオリティー=発信力と感じていて、これをおろそかにしてはいけないと思いました。津堅島はあまりにも知られていない。たくさんの方にこの島の美しさ、魅力をわかってほしいという思いが強かったんです。そのために必要不可欠だったからこそ続けて来られたと思います」

    ※Adobe Creative Cloud(アドビクリエイティブクラウド):PhotoShop(フォトショップ)やIllustrator(イラストレーター)などのクリエイティブツールをサブスクリプション(利用期間の使用権購入)で使用できる。Web(クラウド)からアプリケーションをインストールする形で、ツールは常に最新に保たれる。

    外注費削減、思い通りのデザインが集客にも効果をもたらす

    Adobe Creative Cloudを導入した大きな効果は、印刷物や掲示物の外注費をゼロにできたこと。さらに、イメージがうまく伝わらず妥協することもなく、費用面はもちろん、外注先とのやりとりのための時間や精神的な負担も軽減されました。

    浮いた資金でレーザー彫刻機も購入し、デザインしたロゴなどを彫刻しています。

    「店内のメニューやWiFi表示、オリジナルのデザインなども木材やコルクボードに彫刻しています。手頃な価格の素材でも雰囲気が出て、店内の印象もかなり変わってきますね」

    一眼レフカメラやドローンを使って撮影した写真や動画などもコンテンツとしてHPやSNSにどんどん活用できるように。HPも、土台の部分は外部の手を借りたものの、神谷さん自身のイメージを形にした写真、動画、文章を使って大幅にリニューアルしました。インターネット上での情報発信の質を高めたことにより、様々な効果が表れています。

    「現在、宿泊予約の1/3はHP経由になっています。月間30件ほどのお問合せもいただいて、とても手ごたえを感じますね。電話の場合、対応に15分ほどかかることもあるので、オペレーションも楽になっています」

    オフシーズンのコンテンツも誕生

    Adobe Creative Cloudの導入に加え、人口が少なく、観光地として大規模な整備が行われていないことを強みに変えて新たに立ち上げたのが、” 島丸ごとスタジオに”をテーマにした写真撮影サービス。利用者からは「とても贅沢な時間を過ごせた」と好評です。

    「フォトウエディング、グループ写真合わせて10組ほどの実績があります。本島では誰もいないビーチでの撮影はなかなか難しいですよね。でも、津堅島では文字通り誰もいないきれいなビーチで、誰にも気兼ねせず、他の人が写り込む心配やストレスなく撮影できる。晴れた夜には天の川もはっきり見えるんですよ。

    熱中症や紫外線の問題もあり、写真撮影は11月~5月の期間で行っています。観光のオフシーズンに津堅島に来ていただけるコンテンツとして今後も育てていきたいですね」

    「デジタルで作るものはSNSととても相性がいい」

    SNSは、1台のPCとインターネット環境さえあればどんな場所からも世界中とつながれるツール。美しい景色や独特の文化を発信する力次第で、離島であるという地理的不利を強みに変えてくれるものでもあります。

    Adobe Creative Cloud で作成した魅力的な写真や動画のデジタルコンテンツの発信は、TikTok開始1カ月でフォロワーが3000人(2022年6月現在4200人)に達するなど、短期間で大きな効果をもたらしました。

    TikTokは開始1カ月でフォロワー3000人を突破

    SNSでは写真や動画、デザインのクオリティーがそのまま再生回数や拡散力につながります。InstagramやTwitterも利用していますが、実は「神谷荘」の名前で運用しているものは一つもないんですよ。

    津堅島の魅力をしっかり伝え、ファンになってもらえれば、いつか必ず足を運んでもらえます。その導線を考えて、興味を引く言葉選びにも気を配りながら力を入れて取り組んでいるところです」

    島の持つ魅力を最大限に引き出すコンテンツを生み出したい

    今後、写真撮影サービスで非常に好評だったウエディング関連事業はさらに発展させていく方向です。

    「津堅島なら片道30分で日帰りも可能。飛行機での長距離移動の必要がなく、ゲストの負担も軽くしつつ離島ならではの景色も楽しんでいただけると思うんです。

    現在は写真データをそのままお渡ししていますが、今後はさらに進んでアルバム作成にもチャレンジしたいです。施設の改修も視野に、動画、挙式、披露宴、その後の宿泊までカバーできるサービスにしていきたいと思っています」

    さらに、”津堅島ミュージックアイランド計画”と名付けた島おこしプロジェクトも進めたいという神谷さん。

    「津堅島は、実は三線音楽の祖・赤犬子(あかいんこ)生誕の地。毎日食堂内のステージで開催している無料ライブは、YoutubeやTikTokでもライブ配信中です。将来は県内外からアーティストを招き、リアルはもちろんライブ配信でも楽しめる音楽フェスも行いたいと思っています。収益の一部を使ってのビーチクリーン活動、埋もれている島の文化や行事の掘り起こしにもチャレンジしたいです」

    神谷さんはコロナ禍の休業の中でも前を向き、Adobe Creative Cloudを導入。ゼロから使い方を学び、新規事業立ち上げにつなげました。島の魅力を余すところなく伝えるクオリティーの高いコンテンツは、SNSやインターネットと組み合わせることで、さらなる事業展開の可能性を作り出しています。

    【PROFILE】
    会社名:神谷荘
    代表者:代表代行 神谷恭平
    所在地:904-2317 沖縄県うるま市勝連津堅1472-4
    TEL:098-978-3027
    事業内容:宿泊業
    設立:1980年
    従業員数:4名
    平均年齢:24歳

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