「いっそ朝刊をやめようかと思いました」
慢性的な人手不足に苦しみながらも、宮古島で地域に根ざした報道を続けてきた株式会社宮古新報(以下、宮古新報)。取材の題材調査・決定、取材・執筆・校正といったすべての業務を記者が担い、その品質は経験や熟練度に大きく左右されていました。効率化はもちろんのこと、良質な記事を増やし、島内ライバル新聞社との差別化も図らなければ生き残れない状況。朝刊発行のために時間外業務も多く発生し、一時は夕刊へ移行しようと考えるまで追い詰められたといいます。危機を救ったのは、社長の新城竜太(しんじょうりゅうた)さんが下した、AIとの協業という選択でした。
文章のプロがAIを文章作成に活用する難しさと楽しさ、そこで得られたものとは。日々の業務の参考になる目からウロコのAIの性質や具体的な向き合い方が満載のインタビューです。

パソコンはワープロ代わりのアナログ環境、マニュアルなし、人手不足。課題山積の中の事業承継

新城さんは、2020年5月に宮古新報を事業承継し、社長に就任。当時の現場は、想像以上にアナログだったと振り返ります。

新城さん
「ホームページは2002年頃に作られた時のまま。記事作成にパソコンを使ってはいるものの、ほとんどワープロ代わりでした。インターネット環境もなく、社内での情報共有も難しい状態で、記者は職人気質。記事作成のマニュアルなども整備されておらず、新人には『背中で覚えろ』という状態だったんです」

新聞制作にAIを取り入れる決断をした社長の新城さん

さらに深刻だったのは、過酷な労働環境でした。競合新聞社が8割のシェアを握る中、生き残るためには独自性の高い記事で差別化を図るしかありません。しかし、人手は慢性的に不足し、記者一人ひとりの負担は増すばかり。記事作成はもちろんその後の校正作業にも時間を取られ、9時に出勤して終業時刻は22時を回ることがほとんどでした。常態化した残業で何とか業務を回す中、働き方改革の実践も迫られ、マンパワーだけでの対応は限界を迎えていたのです。

新城さん
朝刊の発行をあきらめて、夕刊に移行しようかとまで考えました。日中に取材をして記事作成や校正作業を済ませ、18時頃から配達を始めるスケジュールなら、皆17時には帰れます。交代制勤務で昼出勤者を置いて、仕上がった記事の校正や夕方以降の取材を担当してもらい、翌日分の記事をストックすればいい、と。そこまで追い詰められていたんです」

そうした状況でも前を向き、ホームページ刷新の準備を進めていた新城さん。発注先となったのは、宮古島の離島・来間島(くりまじま)に拠点を置く、あるIT企業(以下、A社)でした。A社代表とのやりとりを通し、AIの可能性を知ったことが、宮古新報の未来を変えていきます。

「国語力の高い赤ちゃん」「文化的背景が違う外国生まれの新人」。一筋縄ではいかないAIと向き合う最適解

新城さん
「A社からAIの情報を聞いたのは、ちょうど編集長の定年退職を間近に控えた時期でした。マニュアル化も必要でしたし、AIを業務に取り入れ、頼っていくべきだと感じました」

ホームページ刷新も進めつつ、非効率な業務体制や負担軽減の方法についても検討。協議を重ねてたどり着いたのは、校正ツールの導入と、AIを組み込んだ記事文章作成ツール・自動記事文章作成ツール・記事題材リサーチツールのシステム開発でした。

開発時、まず必要だったのは、AIに「宮古新報の記事を作るとはどういうことか」を教えることでした。記者ハンドブックをベースにした新聞全般のルールに加え、数十年の年月を経て形作られてきた宮古新報の個性を明文化しなければならなかったのです。

新城さん
「ただ単に『この情報で新聞記事を作って』と情報を入力してしまうと、宮古新報の形ではない、違和感だらけのものが出てきてしまうんです。でも、私たちもそれをしっかり言葉にして指示できるかというと、できない。受け継がれてきた暗黙のルールや表現の傾向を分解し、『宮古新報の記事はこういうもの』と定義することが必要でした」

長年、無意識で行ってきた記事作成の前提やプロセスの洗い出し。当事者だけでは難しいその作業を、A社は客観的な視点からのヒアリングでサポートし、論理的に、適切な内容に落とし込んでいきました。
「宮古新報らしい」文体や表現を確定させたうえで、それをAIに理解させ、意図した内容で出力するよう調整する過程で、新城さんはAIの性質について深く理解していったそうです。

新城さん
どうAIに理解させるかを知るためには、AIとはどういうものかを知ることが必要でした。A社の担当者が口にしていたのは、『国語力の高い赤ちゃん』『文化的背景が違う外国生まれの新人』という言葉。大人なら判断できること、言わなくてもわかることを、きちんとプロンプト(指示文)に書いてあげなければいけないんです。そして、賢くて忘れてしまいがちですが、新人なのだから何もわからなくて当然。教えるのはこちらの仕事です。
例えば、500文字程度の内容が欲しいなら、『日本語全角500文字』。どの点を重視して記事にしたいのか、何が重要かをAIは判断できません。『これが重要だよ』『この部分を中心に書きたい』という明確な指示も重要でした」

無理に変えない、でも諦めない。新城さんが選んだ現場を混乱させない導入の道

AIそのものへの理解も深めながら、宮古新報へのツール導入・システム開発はA社との二人三脚で進んでいきました。高額になる開発費用は、沖縄DX促進支援事業(令和7年度より沖縄DX推進支援事業、沖縄県商工労働部ITイノベーション推進課事業)を活用することで工面しました。

校正ツールは、様々あるツールの中から、記者ハンドブック(新聞用字用語集。多くの新聞記事執筆がこのルールに則って行われている)による修正と表記ゆれの指摘の精度が高い「Just Right!7 Pro」に決定。記者それぞれの基準や記憶に依存し、ミスや不統一もあった校正の基準を定めました

手作業だった校正にツールを導入
手作業だった校正にツールを導入

記事文章作成ツールは、取材担当者が作成した「誰が、いつ、どこで、なぜ、どのように」などの取材メモをスプレッドシートに入力し、その内容を生成AIに連携して、指定の文字数の原稿と複数の見出し案を出力するものです。

取材メモから入力し記事を作成

新聞記事は、プレスリリースや取材依頼など、事前にある程度の情報を得て作成されるものも多くあり、印刷した書類を日付別に分け、担当を割り振って個別に内容を確認していました。こうした記事作成に対応するのが自動記事文章作成ツールです。FAXはPDFに変換、メールファイルはそのままフォルダに格納します。そのファイルを定期的にAIを組み込んだツールが参照し、記事のたたき台が作成される形です。
一方で、旬の話題や島民が注目しているトピックについては、SNSなどを通してのリサーチが必要でした。こちらをシステム化したのが記事題材リサーチツールで、SNS上の情報を分析し、注目度の高い記事題材を毎日収集し、得られた結果を記者向けにメールで送信します。リサーチ業務の省力化とニーズを掴んだ記事の作成をサポートするものです。

若手はこうした取り組みに前向きでしたが、長年記者としてのキャリアを積み、腕を磨いてきたベテラン記者たちには大きな抵抗感があったそうです。新城さんは、彼らを無理に変えようとはしませんでした。分担していた校正確認作業を一手に引き受けるといった工夫で負担軽減を図りつつ、従来の記事制作方法も残していくことで、大きな混乱を招くことなく導入を進めていったのです。

4つの取り組みで残業ほぼゼロ、週休2日を実現。コラム新設も可能に

校正ツール導入により、記事全体の文言やルールが統一。体制は2.5名から1名に、作業時間は1日約3時間から2時間へ短縮されました。

記事文章作成ツールは、記者の仕事を二つに分割しました。記事を執筆するプロセスと、その準備段階である取材メモの項目記入と写真撮影です。これにより、記者が構成や表現の検討に集中できる環境を作るとともに、外部委託化も可能となりました。現地に取材に行き必要な情報を取ってくる役割は外部に任せ、執筆は記事文章作成ツールをサポートに使いつつ社内の記者が仕上げることで、品質向上につながるとともに、1記事あたりの作成時間を約2時間短縮しました。

自動記事文章作成ツールでは、大量の依頼があってもたたき台によって事前情報が整理・共有されます。これによって補完すべき内容が明確になり、取材前の打ち合わせの効率化を実現しています。

記事題材リサーチツールは最新情報がリアルタイムで飛び交うSNSから「島民が今、何に関心を持っているか」を可視化。トレンドとニーズを掴んだ取材計画立案・記事提供を可能にしました。

これら4つの取り組みにより、宮古新報の労働環境は劇的に変化します。
22時の終業があたりまえだったというほど常態化していた残業はほぼゼロになり、週休2日も実現。正確性・統一性も向上しました。

新聞記事
質を保ったまま、一人で1日18本もの記事を仕上げることも可能に

新城さん
「AIのおかげで、残業なしで朝刊を発行できる体制を維持できています。以前は業務量の多さから取り上げるのが難しかったOIST(沖縄科学技術大学院大学)が発表する研究結果なども、いち早く報じられるようになりました。コラムを新設して独自記事の掲載も始めています。15本はAIに助けてもらって、残り3本は私が書いて、というように、質を保ちながら、一人で18本の記事を書くこともできるようになったんです」

自社の変革のみならず、AIを通して地域に貢献する未来を描く

これだけの成果を挙げながらも、新城さんは常に謙虚に学び続けています。

新城さん
補助金事業に採択されてツールを導入して終わり、ではないと思います。DXやAIに関するセミナーやイベントには、何かしらヒントになるものがあればと思い、足を運んでいます。使ってみたいツールの情報が得られたり、既存のツールにももっと便利な使い方があったり、実際にどう使うかを教えてもらったり。そういうことができる貴重な場所だと思います」

進化していくAI、次々に新しくリリースされるITツール。常に新しい情報に触れ、アップデートを続けるのは、質とスピードという矛盾する価値の両立を目指しているからです。

新城さん
「私たちが読者に提供できる価値は何かと考えると、正確で良い記事を、より早く届けることこそが最重要です。
地方の新聞社が変化を続けながら生き残っていく可能性は、AIが握っていると感じます。校正や簡単な要約などを除いて、私たち以外にAIをここまでコア業務に取り入れているところはまだないかもしれません。
記事の質を保ちながらスピードを落とさないためには、AIを活用し、その進化に合わせて使い方を変えていくことが必要だと考えています。より良い方法を、これからも模索していきたいです」

他新聞社との協業やAI活用による地域性・独自性の高いローカルメディアの新規立ち上げ、デジタルメディア中心の情報発信への移行といった発信メディアの変革はもちろん、AIを組み込んだツールを地域に展開し、学校教育などに役立てることで、ITやAIへの理解を深める機会を提供したい、と新城さんは語ります。

島の新聞社が下した、「記事を書く」というコア業務にAIを取り入れる決断。それは、「朝刊をやめようか」と考えるほどに追い詰められた状況を一変させたばかりでなく、AIを通して地域に貢献する未来を描くことにまでつながりました。宮古新報が取り組み、目指すものは、新聞社の未来のあり方に大きな示唆を与えています。

【名称】株式会社宮古新報
【事業内容】新聞発行業
【創業】1968年
【代表者】社長 新城竜太
【所在地】沖縄県宮古島市平良字西里333-1
【平均年齢】44.6歳

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