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生徒の定着率・満足度向上に大きな効果。小規模音楽教室が運営をIT化、DXへ【二胡姫響】
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「もう、アナログでは対応しきれない」。
中国の伝統楽器「二胡(にこ)」の音楽教室運営を行う二胡姫響(にこひめひびき)の転機は2024年に訪れました。レッスン料金引落ミスやレッスン時間の重複など、教室への信頼を揺るがしかねないヒューマンエラーが重なる事態に限界を感じた代表の上地エリサさんは、那覇商工会議所から情報を得て、補助金を活用してITツールを選定・導入。業務効率化と正確性をどちらも向上させたのです。
アナログからデジタルへの転換で効果を実感したことはもちろん、可視化された様々なデータを「おもしろい」と感じた上地さん。小さな音楽教室の運営は、今、攻めの方向へと転換しつつあります。
「アナログでも何とかやっていける」「小さい教室だし、ツールを入れるまでもない」。二胡姫響の事例は、そうした考えを大きく変えるものになるかもしれません。
レッスン料金引落やスケジュールミス。コロナ後の生徒層の変化で再認識した課題
少人数の対面レッスンを基本とし、那覇と石垣に教室を構える二胡姫響。那覇本校に約60名、石垣分校に約15名の生徒が通っています。
以前は生徒への連絡・出欠確認・レッスンの振替などのスケジュール調整を電話などで行っており、突然の体調不良などによる変更も受け付けていました。記録は手作業・紙ベースでヒューマンエラーの原因にもなっていたそうです。担当講師から経理担当への情報共有が滞ることもあり、その結果、レッスン料金の引落ミスやレッスン時間・場所の重複などのトラブルも発生していました。

教室への信頼に大きな影響を及ぼすとともに、スケジュールミスによるレッスンのない時間の出勤、勤務時間外の確認作業といった、講師たちの負担増にもつながっていたのです。さらに、電話での欠席連絡に引け目を感じる生徒が多かったことも、上地さんをデジタル化に向かわせた理由の一つでした。
上地さん
「これまで、時間に余裕があるシニア層の生徒さんが多く、ミスがあっても『じゃあ次で調整しようね』と許していただいていた部分がありました。でも、コロナ禍以降、仕事や育児などの合間を縫って通ってくださる30代、40代の生徒が増えてきたんです。スケジュールにミスがあると予定が狂って仕事やお子さんのお迎えなどに影響が出てしまうし、残業や急用でレッスンを休まざるをえないことも多く、欠席が続くと電話しづらくなってそのまま退会、という方も出てきてしまって、何とかしなければと感じていました」

上地さんは、所属する中小企業家同友会や那覇商工会議所からITツールやDXに関する情報を収集。ITツールの選定・導入に関しても専門家に相談でき安心と感じた小規模事業者等デジタル化支援事業(以下、小規模事業)補助金の窓口を訪れます。
窓口での助言から規模感・費用面も納得のスクール管理アプリの導入へ
上地さんは、引落ミスやスケジュール調整の課題、アナログな事務作業についても効率化したいと考えていることなど、業務の困りごとを相談。それを聞いた担当者はスクール管理ツールの利用を提案しました。
上地さん
「担当の方がリサーチし、たくさんのツールの中から3つほどに絞り込んでくださった中に、小規模教室の運用に対応していて、料金が数万円に抑えられる『スコラプラス』がありました」
スコラプラスを取り扱うIT企業は、営業担当者はもちろんのこと、技術担当者も同席し、生徒の年齢層、クラスの開催スケジュール、料金設定など細かな部分までヒアリングを実施。数度のオンラインでのミーティングを経て導入が決定すると、技術担当者が二胡姫響を訪れ、丸1日を費やして設定と機能説明、操作方法のレクチャーなどを行ったそうです。
上地さん
「電話やチャットではなく実際に来ていただけたので、気になったことや疑問に思うことをその場ですぐに聞けて本当に助かりました。オンラインミーティングの段階から同席してサポートしていただいていた小規模事業の担当者の方も様子を見に来てくださり、心強かったです」
その後はサポートセンターを通して随時電話やメールでの相談に対応してもらいながら、導入決定から約4カ月で管理ツールの本格運用が開始されました。

難関だったツール導入のための情報整理。シニア世代には無理をさせず適切なサポートで運用
運用開始までの準備の中で、最も上地さんの頭を悩ませたのは、業務の棚卸と情報の整理・見える化でした。あちこちに散らばる情報、時には上地さん自身の頭の中にしかない情報も整理して書き出し、外部の人にわかるように体系化する作業に多くの時間を費やしたそうです。
上地さん
「少人数で運営してきたので、教室に通う生徒さんの情報は名簿程度しかなく、クラス分けや料金体系など教室の情報もきちんと外部の方に示せるような形でまとめたことがありませんでした。クラス分けなどの基準も明確にし、足りないものは補いながら、集めた内容を見える化するのがこんなに大変だとは(笑)。どんな業務があるかを振り返り、棚卸しする機会にもなりましたが、とにかく大変でした」
スコラプラス導入でこれまでの方法を大きく転換しなければならなかったのは、ITツールに苦手意識のある60代の経理担当者でした。そこで、負担が大きくならないよう、IT企業による説明や研修には上地さんと経理補佐担当者が参加することにしたそうです。その後説明資料を作成し、実際の操作も二人がサポートしながら、少しずつ、焦らず、経理担当者に使い方を伝えていきました。
講師陣は生徒とのコミュニケーションや講師間・経理担当への申し送りなどの機能を活用、当初から特に問題なく使用できています。
生徒向けの説明も行いましたが、子育て世代からは「子どもの習い事の教室でも使っている」といった声もあり、難なく操作を覚える人がほとんどでした。シニア世代になると少し難しい場合もありましたが、電話での問い合わせが多かったレッスンスケジュールの確認機能のみに絞って案内し、無理のない範囲で使用してもらっているそうです。
講師がレッスンに集中できる環境、生徒の満足度・定着率向上が実現
スコラプラス導入により、電話などで行っていた欠席・振替などの連絡はアプリ上で完結。シニア層から多かったレッスンスケジュールの確認などの電話も大幅に減りました。長期の休みや復帰といった状況も一目でわかり、教室運営に関わる情報共有は格段にスムーズになったそうです。生徒の出席状況を正確に把握できることで、レッスン料金の引落ミスもゼロに。講師が確認作業に手間を取られることなく、生徒への対応やレッスンの質の向上に専念できる環境が整いました。
もたらされた様々な効果の中で、上地さんが最も大きくメリットを感じているのは、振替機能の活用による出席率の向上と退会率の低下です。レッスンの振替には以前から対応していましたが、電話での相談・調整が必要で、振替できないままになってしまう場合も多かったそうです。

上地さん
「生徒さんたちからはレッスンの振替機能がとても好評で、実際にレッスンの欠席者の約半数が振替機能を活用している状況です。残業や繁忙期で休みが続いて退会する方が出てしまったり、誰も出席できずレッスンがなくなってしまうことが入門や初級のクラスでよく起きていましたが、今では平均の出席率が80%になり、定着率も向上 したと感じます。振替機能は確実に退会防止につながっています」
こうした成果は、経理担当者にもポジティブな影響を与え、「生徒さんが喜んでくれるなら」と、システムでの入力作業に臨むモチベーションにもなっているそうです。
ITツールを画一的に導入するのではなく、ITリテラシーの異なる人の気持ちを思いやり、活用方法を変えること。ITツールの効果をしっかりと引き出し業務を効率化すること。両立が難しく思われるこれら二つを絶妙なバランスで実現した上地さんは、「できることが多すぎてこちらが追いつかない」と謙遜しながらも、スコラプラスの持つ機能を使い、SNSとの連動など新たな取り組みにも着手しています。
ITツールは、業務の効率化だけでなく楽しみももたらすもの
SNSとの連動が容易な点もスコラプラスの特徴です。小規模事業担当者に問い合わせ、SNS運用の専門家と短期契約を結んだ上地さんは、アドバイスを受け、スコラプラスに標準装備されている体験レッスン申込フォームを教室の公式SNSに連動させました。これは、スケジュールが変わるたびに作り直していた受付フォーム作成作業を効率化しただけでなく、新規入会が少ない時期にも、体験レッスンから入会につなげる流れを絶やさないことにもつながりました。
スコラプラスによって生徒の居住地などの情報が可視化されることで、今後打つべき一手も明確になってきているそうです。

上地さん
「生徒さんは、沖縄本島内では名護市から糸満市まで幅広い地域から通っています。移動の負担を減らすために、沖縄市など、生徒さんの数が多く利便性の高い地域への分校の開設も検討しています。
入退会の傾向など、これまで何となく肌感覚で把握してきたものをしっかりとデータ化し、年間スケジュールを立てて余裕をもって対応できる体制も整えたいところです」
現在は各講師が生徒に合わせて内容を組み立てているレッスン内容も、教室として体系化・標準化する方向にシフトしています。知識や技術に合わせたレベルなども設定していくことで、生徒のモチベーションを上げて出席率や継続率を上げるだけでなく、将来的には二胡講師の育成などにもつなげたい、と、上地さんは生き生きと語ります。
上地さん
「これまで気になっていたこと、何となく感じていたことをデータという根拠をもって示してくれることも多く、“かゆいところに手が届く”感じで、運用はちょっと楽しいんです。日々の業務が効率化されるだけでなく、知ること、調べることで視野が広がり、楽しいもの、新しいものを知る機会になっていると感じます」
「デジタル化しなければ」「効率化しなければ」という思いだけでは、ITツールの活用やDXは苦しいものになってしまいがちです。しかし、新しいツールとの出合いや新しい業務の方法は、便利さや楽しみをもたらしてくれるものでもあります。義務感や責任感を少しだけ脇に置いて、軽やかな気持ちでDXに向き合ってみてもいいかもしれません。














