- 事例紹介
- IT活用/データ活用
「ステーキハウス88(ハチハチ)」、月桃そばで人気の「美濃作(みのさく)」を運営する株式会社沖縄テクノクリエイト(以下、沖縄テクノクリエイト)は、コロナ禍で地元客重視の経営へと舵を切り、しゃぶしゃぶやハンバーグを扱う店舗も展開しています。成長を続ける裏側には、毎月の棚卸での無視できない差異や、どんぶり勘定・紙ベースの非効率な業務という課題に向き合い、乗り越えた努力が隠されていました。
原材料費や人件費の高騰に負けない経営基盤はどう作られたのか。沖縄県民にとってなじみ深い老舗飲食店の挑戦の道のりを、総務部 部長の仲里太陽(なかざとたいよう)さんにお伺いしました。
紙に手書き、電話とFAX主体の業務。店舗拡大とともに仕入れ管理が大きな課題に
仲里さんが入社した2011年当時は4店舗ほどの展開で、伝票も売上集計も手書きだったそうです。それが変わるきっかけは、当時、那覇市内のみだった店舗の本島北部の本部町への出店でした。遠方のため、紙ベースの管理では当日中の売上管理もままなりません。そこで踏み切ったのが、POSレジ導入でした。
仲里さん
「那覇市内、少数店舗であれば紙のデータでも確認に行けます。でも、毎日本部まで行くのは難しい。じゃあどうしよう、と考えての決定でした」

最初は本部店のみの導入でしたが、売上やレジの出金額、取り消しデータも翌日には確認でき、感覚ではなく、実際の数字で売上の推移を把握できる利便性を痛感。順次那覇の店舗にも拡大していきました。しかし、スタッフへの浸透には大きな壁がたちはだかり、当時スタッフ平均年齢が55歳だった店舗では「使いたくない」「こんな小さい字は見えない」という声も上がったそうです。
仲里さん
「『ちょっとずつ慣れていけばいいよ、最初は手書きと併用でもいいから』と声かけをして進めました。3ヶ月もすれば年配の方も慣れて、今では、紙に戻したいかと聞くと『これが楽。もうあの時代には戻れない』という答えが返ってくるようになりました」
2019年には県内13店舗を構えるまでになりましたが、在庫管理は依然手書き・紙ベースの管理のままでした。
原材料費が高騰し始める中、大きな課題となっていたのは、各店舗の裁量に任されていた仕入れだったそうです。毎月の棚卸での差異は無視できないほど大きくなっていましたが、仕入れる食材や調味料はもちろん、取引業者もばらばら。紙伝票でのやりとりで、内容の確認も難しい状況でした。
FAXや電話での発注も問題でした。外国人スタッフの雇用を増やしていた沖縄テクノクリエイトでは、FAXの文字が判読できない、電話で聞き取り間違いをしてしまうといった、日本人でも起こり得るヒューマンエラーがより深刻なものとなっていたのです。

県外展示会での情報収集から受発注システムを導入、充実のサポートが浸透・活用を支える
当時、新規店舗の企画や経費削減、総務、広報など幅広い業務を担っていた仲里さん。経営の見通しが立てにくい状況を変え、業務をより効率的に進めるため、東京などで開催される展示会に積極的に足を運んでいました。そこで出会ったのが、発注から請求までをデジタルで完結できるクラウド型システム「BtoBプラットフォーム 受発注」だったのです。
仲里さん
「コストや規模感、機能などのバランスについて、複数のシステムを比較検討しました。業務上、受注・発注両方の機能を使用するので、どちらも使い勝手が優れていることがポイントになりました。色々な質問にも的確な回答をいただけたこと、導入・活用のサポート体制がしっかりしていたことも大きかったです」
現場での使いやすさも重視し、仕入担当者や経理担当者の声も丁寧に聞きながら導入を決定しました。
導入後、まず取り組んだのは原材料仕入れの統一。より良いものを提供したい思いから、調味料にこだわるスタッフもいたといいます。仲里さんは、味わいやコストとのバランスを見ながら決定された銘柄を示し、「あなた方は職人。決まった調味料で同じ味を出すのが腕の見せどころ」と呼びかけたそうです。
決定した品目は当時の仕入担当者が一手に引き受けて登録作業を行いました。文言を統一して過不足なく情報を盛り込み、「システム上に棚を作る」イメージで、店舗内の保管場所とも紐付けていったそうです。
現場研修は、エリアごとに分け、数日にわたって実施しました。幹部や店舗責任者がまず学び、経営本部と店舗責任者、さらに開発元のIT企業(以下、A社)の三者でフォローし合いながら、スタッフへの浸透を図りました。
受発注システムは、当然取引先にも使ってもらわなければなりません。どういったシステムなのか、これまでのFAX・電話ベースのやりとりがどう変わるのか。説明と協力依頼のために、沖縄テクノクリエイトはA社担当者の全面的な協力のもと、説明会を開催したそうです。取引先が一堂に会した光景は、今でも仲里さんの目に焼き付いているといいます。
仲里さん
「説明会の開催など、本当にA社のサポートは手厚く、今でもやりとりは続いています。右も左もわからない状態から見切り発車に近い形でスタートした部分もあり、サポートがなければ途中で投げ出してしまっていたかもしれません」
年間500万円の削減、原価率5%改善。可視化された「きれいな数字」がクリアな未来を描く
取り組みのもたらした効果は大きなものでした。仕入額は年間500~600万円削減され、原価率は40%から35%に減少。基幹システムとのデータ連携で原価・棚卸計算も迅速・正確になっています。
取引先は約半数がすでにシステム使用経験があり、導入初年度で約7割がシステム利用へ移行しました。その後「うちもやってみようと思うから教えて」と手を上げる取引先も増え、現在では90%程度まで浸透しているそうです。年齢や事業規模の面で対応が難しい場合もあり、残る10%は電話やFAXでの注文を継続して行っています。
仲里さん
「最初こそ、単位を間違えて12本入り1ケース注文のはずが12ケース届いてしまったり、『入力が難しい』『電話ならギリギリの発注もできたのに』といった声が出ることもありましたが、皆すぐに慣れて使いこなすようになっていきました。たびたび起きていた発注ミスは、月に1度起こるかどうかにまで減りました。システム上で発注履歴を確認できるので、万が一忘れていても、携帯から確認してすぐに発注できる。ダブルチェック、トリプルチェックも簡単になりました」

在庫状況が可視化され、誰もがリアルタイムで確認できるようになったことで、スタッフの意識が変化。翌日の分までの在庫ではなく、2日、3日先までを見据えて発注するようになりました。目の前の業務だけでなく、より広く、俯瞰する視点が育ちつつあります。
紙の伝票を保管するスペースも大幅に減少。何より、データが可視化されたことで、経営判断の質が変わったといいます。
仲里さん
「経営陣も、全店で統一され、可視化されたきれいな数字を見て判断できることで、将来的な計画が立てやすく、精度も上がっています。価格改定の時期には、取引業者を比較しての切り替えの検討や判断もしやすくなりました」
2023年からは、店舗責任者に対し大まかな原価率や人件費率の情報共有も開始。より一層、経営的視点を持つ責任者が増えてきています。店舗ごとに作成する新メニューも、複数の業者に見積を取ることがあたりまえになるなど、原価への意識が高まっているそうです。
スタッフ350人以上の生活を守るため、コロナ禍で店舗拡大という「逆張り」路線を選択。それを支えたIT導入
観光客をターゲットに店舗を展開していた沖縄テクノクリエイトは、2020年に始まったコロナ禍で大きな窮地に立たされました。当時のスタッフは350人以上。雇用を継続させ、彼らの生活を守るためにはどうするべきか。経営陣の決断は非常に大胆なものでした。銀行から融資を受け、地元客向けの店舗展開へと舵を切り、積極的に出店していったのです。

仲里さん
「撤退ラッシュの中で立地が良くてもテナント料が低く設定され、出店にはチャンスでもあったんです。どんな状況でも、お食事をしないということはありません。大変な時だからこそ、おいしいお肉でちょっとした贅沢、幸せを感じていただけたら…。そんな思いもありました」
沖縄テクノクリエイトは、アメリカンステーキをより気軽な価格帯で楽しめる「ステーキハウス88Jr(ジュニア)」を中心とした出店を一気に拡大。県内大手スーパーとの提携も始まり、地元客の多い地域や商業施設へ、そして県外へも進出を果たします。大胆な逆張り戦略は見事に功を奏し、雇用を維持するに止まらず、事業拡大の土台を作っていきました。
2019年当時の13店舗から、2025年は福岡1店舗を含む26店舗を展開。スタッフ数は650名を数えるまでに成長しています。

こうした躍進は、紙ベースやFAX・電話での受発注から脱却し、システムへの移行を始めて効率化・平準化が進んでいたからこそ可能になったことでした。また、すべての業界で課題となっている人材の確保にもシステム化は大きく貢献しています。沖縄テクノクリエイトのスタッフは約400名が外国籍。日本語を母国語としない留学生や特定技能(外国人が就労が可能な16分野の在留資格)を持つ外国人人材の雇用を積極的に進められたのも、複雑な読み書き不要で業務に従事できる体制が整えられていたからだと言えます。
成功体験の積み重ねが次のDXへ。データ経営で未来を切り開く
受発注システムの導入とそれに伴う成功体験は、沖縄テクノクリエイトにさらなるデジタル化への推進力をもたらしました。2021年6月に対応が義務化された「HACCP(ハサップ)」のための現場管理アプリ「カミナシ」導入に続き、複数店舗を経営する飲食企業向けの経営管理システム「FLARO(フラーロ)」も導入。クラウド型人事労務ソフト「Smart HR」も取り入れ、入社関連書類の受け渡しや有給申請、外国人従業員のビザ更新(エアビザ連携)など労務管理の効率化を行いました。給与明細発行もデジタルに移行する予定で、仲里さんは「受発注システムに出会っていなければ、多くの業務がまだ手書きだったかもしれない」と笑います。
2025年には、飲食店の業務工程を可視化する「V-Manage(ブイマネージ)」も導入。タブレットによるタスク管理やマニュアルの一元化にも踏み出しました。
仲里さん
「人が業務を行う方法はそれぞれですし、ミスも発生します。それを皆がわかりやすい形に統一して効率化し、ミスを限りなくゼロに近づけることができるのがシステム。手書きの文字が読めない、わかりにくいといった業務上のストレスも減り、余裕にもつながり、スタッフの仕事の質も向上します。最新のデータに基づいた素早く正確な判断は今後の経営には欠かせないもの。ITツール導入・活用、DXは必須の取り組みであり、今後も積極的に続けていきます」
どの業界でも、システム化していくことはより高みを目指すことにつながっていく、と語る仲里さん。ツール導入や選定の際、どんなところに着目しているのでしょうか。
仲里さん
「店舗数や規模感に合うかどうか、そしてコスト。投資に見合う効果を得られるかどうかは重要です。自分たちをシステムに合わせるのではなく、自分たちに合ったシステムを選ぶんです。その際には現場の課題感や声を聞くこともとても大事になります。
税率や労務関係の保険料率もどんどん変わります。買い切りでは手動での変更や追加料金でのアップデートが必要になってしまうので、クラウド・サブスク型を選んでいます。
もし、何が必要かわからない、といった状況なら、展示会に行ってみるのがおすすめです。見て回って、ブースで話を聞いてみるだけでも必要なものが何なのかが見えてきます。私自身もそうやって色々なツールに触れ、導入を進めてきました」
どんぶり勘定の経営から脱却し、データから未来を描く経営へと変革を遂げた沖縄テクノクリエイト。その歩みは、激しく変化する世界の中で生き残り、発展を目指す企業にとっての大きな道しるべになっています。















