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実証実験ホテル「タップホスピタリティラボ沖縄」が目指す、沖縄の観光・宿泊産業の課題解決とDX推進

2023年6月30日、沖縄県うるま市のIT津梁パーク内にオープンしたTHL(タップホスピタリティラボ沖縄)は、観光・宿泊産業の生産性向上を実現するための実証実験施設。大手ソフトウェア企業、ロボット制作企業を中心に60社が参画し、沖縄経済を牽引する観光産業をさらに成長させていく、全国初の取り組みをご紹介します。

沖縄観光産業の課題

リゾート地・沖縄のリーディング産業である観光産業。その要とも言える宿泊産業では、コロナ禍などにともなう離職と急速に回復しつつある観光需要による人材不足が大きな課題となっています。
こうした課題を解決するには、業務のデジタル化やDXによる労働生産性の向上が不可欠。しかし、そこには多くの壁が立ちはだかり、企業単位での実現にはなかなか至らないのが現状です。

経営層のデジタル化・DXへの理解浸透不足、スタッフの体験・体感不足、まとまった資金や大規模な改修が必要な場合が多く現場環境でのテスト運用が難しい、といったデジタル化やDXの壁をどう越えていくか。また、ホスピタリティが求められる産業で、デジタル化やDXはどのように進められるべきか。

そうした問いに答え、宿泊産業のDXを「ソフトウェアのDX」「ロボットなどメカによるDX」「施設・設備のDX」から推進しようと誕生したのがTHL(タップホスピタリティラボ沖縄)です。

ホテルに特化したデジタル・DXの実証施設で課題に挑む

THLは、宿泊産業の生産性・顧客満足度向上に向けた最新のテクノロジー導入を後押しする実証実験の場。具体的には、ホテル単体での導入が難しい大がかりな改修や高額な製品の実証と改善、さらには製品どうしの組み合わせを行い、よりニーズに合ったサービスやソリューションを生み出す場です。
2023年8月現在はまだ準備中ですが、宿泊業関係者が実証中の新たなテクノロジーやロボットによるサービスを実際の宿泊を通して体験できるよう、38の客室の稼働が予定されています。

タップホスピタリティラボ沖縄の施設概要
タップホスピタリティラボ沖縄(THL)施設概要

THLで始まっている主な実証実験の内容を3つご紹介します。

①ロボットのフリートマネジメントシステム
制御・駆動方法が異なるため、従来は難しかったメーカーの異なるロボットどうしの連携を実現。位置情報を把握することにより、同じ建物、フロア内で安全に、同時に動かすシステム。
6月30日現在、22台のロボットを導入済。アテンド、清掃、警備巡回などに活躍中。カフェではロボットアームと配膳ロボットを連携させ、ドリンク作成から特定の席までの配膳を自動化
タップホスピタリティラボ沖縄で進むロボットアームと配膳ロボットを連携させる取り組み
②ITボックス(客室ドア)
通信インフラと電源供給機能を持ったボックスを設置することで、ドア本体の工事などを必要とせず様々な開錠方法の追加搭載がフレキシブルに可能に。現在は顔認証・静脈認証・二次元バーコード・カード・アプリなどを実証実験中
タップホスピタリティラボ沖縄のITボックスと客室ドア

③ITカウンター(フロント機能・非接触レセプション)
アプリとタブレット、コミュニケーションロボットの連携により、完全非接触・非対面のレセプションを実現。コミュニケーションロボットは客室内にも設置、宿泊中のサポートなども行う

タップホスピタリティラボ沖縄の③ ITカウンター(フロント機能・非接触レセプション)

新たなホテルの姿を国内外に。沖縄の観光産業にも貢献を

多様な実証実験が進むTHLを運営するのは、35年以上にわたってホテル管理システムで宿泊産業を支えてきた株式会社タップ。代表取締役会長兼社長である林悦男(はやしえつお)さんは、宿泊産業全体で人材不足や生産性向上、新たなテクノロジーへの対応を進め、DXを推進しようと2017年からTHLの構想を温めてきました。企業の連携を図る目的で宿泊施設関連協会(JARC)も設立、6年をかけて開設にこぎつけたのです。

タップホスピタリティラボ沖縄の生みの親・林悦男さん、所長の藤原猛さん
(右から)株式会社タップ代表取締役会長兼社長 林さん、THL所長 藤原さん

林さん:
宿泊産業を自動車産業に例えると、我々は部品産業。良い部品がない限り良い自動車は生まれません。だから、部品産業で集まって切磋琢磨していこうよ、ということです。
また、車がテストコースで安全性や性能、快適性などを確認してユーザーの手元に届けられるように、ホテルの新たなテクノロジーやサービスに関しても、実際の場面で使用して、浮かび上がってきた問題点をなくしてから現場へ導入できればと考えました」

なぜTHLのロケーションとして東京ではなく沖縄を選んだのか。その理由を、林さんはこう語ります。

沖縄は地理的にアジアと近く、外資系も含めすばらしいホテルが多く立地する場所。国内外のより多くの関係者にTHLを見ていただけると感じます。また、IT津梁パークは国内外の情報通信関連産業の一大拠点であり、リゾート&ITの戦略拠点。『DX実証実験』『ホテルテクノロジーサービス拠点』『高度観光人材育成』『地域防災拠点』をテーマに、沖縄と、沖縄のリーディング産業である観光産業に貢献できればという思いもあります」

観光を、「安心・安全や快適さ、文化といった地域の総合力であり、『社会インフラ』」ととらえている林さん。THLは琉球大学、沖縄高専、観光業界団体との連携も計画中で、うるま市とは2023年1月に災害連携協定も締結しています。関係企業のみならず、地域や学校との協力体制を築き、さらなる取り組みを進めていく予定です。

所長を務める藤原猛(ふじわらたける)さんは、「地元に密着した施設に育てたいという思いがあり、うるま市、沖縄県とはさらに連携を深めていきたいと思っています。地元向けのイベント参加や、多数いただいている企業や学校、団体などからの見学問い合わせにもできる限り対応していくつもりです」と話し、産業ツーリズムの拠点としても機能している様子もうかがえます。

テクノロジーと人の心の両面からDXの壁を取り払う

より良い製品やサービスを目指し実証実験を行うだけでなく、宿泊業関係者が実際の宿泊を通して新たなサービス、テクノロジーを体験できることが、THLの大きな特徴です。

株式会社タップ代表取締役会長兼社長、林悦男さん
「DXの実現にはUXが不可欠」と語る林さん

林さん:
DXの実現にはUX(ユーザーエクスペリエンス/製品やシステム、サービスなどの利用でユーザーが得る体験)が不可欠なんです。機能について説明で理解できても、本当に現場に必要か、お客様が快適に感じられるかは、実際使わなければ判断が難しい。だからこそ、新たなテクノロジーやロボットによるサービスを、実際の宿泊を通して皆で感じ、考え、判断する場所が必要だと思います」

長く人が担ってきたサービスを、機械やロボットへ置き換える。そこには当然「サービスの質が下がるのではないか」「お客様が満足するホスピタリティを提供できるだろうか」といった疑問も出てきます。そうした疑問に、実際の体験から答えを見つけて一歩踏み出してもらう。THLは、実証による製品やサービスの改善を行い、新たなアイデアを生み出すのはもちろん、DX推進の大きな壁のひとつである人の心に働きかける場にもなりえます。

タップホスピタリティラボ沖縄のアテンドロボット

実証実験から生み出される安全で便利なテクノロジーと人の心の変容を通し、DX推進が実現されれば、生産性向上による業務負担軽減とともに、ワークライフバランスの改善で定着率も上がり、人材不足解消につながるかもしれません。

さらに、現在は線引きがあいまいな「ロボットにできること」「人間にしかできないこと」を実証から見定めることもできると考えられます。ロボットにできることはロボットに任せ、人間は人間にしかできないことに専念するサービスへのシフトが起こり、ホスピタリティの高い専門人材が育つことで、ひいては沖縄観光の高付加価値化につながる可能性もあるのではないでしょうか。

ホスピタリティとテクノロジーを融合させた新しい宿泊産業の形が沖縄で生まれ、輸出産業へと育っていく未来も、遠いものではないかもしれません。

【施設概要】
名称:タップホスピタリティラボ沖縄(THL)
所在地:沖縄県うるま市洲崎14-27
Tel:098-901-6381
敷地面積:8375.35㎡(2533.5坪)
開設: 2023年6月30日

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